魂の深い小説

 お久しぶりです(って、どなたに挨拶しているのやら)。

 前回からずいぶん経ちました。その間に、無事に復職し、通常の生活に戻ることができました。
 この一年間は、私の魂における、善光寺の御戒壇巡りのような経験であったように感じられます。

 ところで、私はあまり小説を読みませんが、そんな乏しい小説読書経験の中でも、時たま、魂のレベルにおいて、品格とその深さが群を抜いていると感じ、背筋を正される思いになる作品に出会うことがあります。
 今日読み終えた、石牟礼道子の『アニマの鳥』は、私にとって、そういう小説でした。

 
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 これは、いわゆる「天草・島原の乱」に関する小説です。

 これまで、この乱に関し、専門家の手による書物を中心に、私は何冊か読んできました。
 が、『アニマの鳥』を読んで、私は、乱に加わった一人ひとりの心をこれ程までに深く表現されていることに感銘を受けると共に、歴史とは、魂の尊厳を持つ個々人が織りなす血の通ったもので、名も残されぬ者たちの想いと人生に心を寄せ、敬意をもってそれに触れようとする営みなのだということを教えていただいた思いがしました。

 最終章である第十章「炎上」を読みながら涙を流し、最後の一文を読み終えた後は、しばし粛然とした気分に包まれて、空を眺めていました。

 石牟礼道子の文学を、母語で読むことができるのは、一つの幸いだと感じます。

 石牟礼さんの『椿の海の記』も素晴らしかったのを思い出しました。
 『苦海浄土』については、私ごときが語るに及ばず。

 

苦海浄土 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

苦海浄土 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

 初めて『苦海浄土』第一部を読んだときの衝撃は忘れられません。

 はるる