ウリー

 前回覚えていないと書いた、『飛ぶ教室』に出てくる高い所から飛び降りる少年の名前は、ウリーでした。名前を確かめようと図書館からこの本を借りて読み返し、何度読んでもいい話だと再認識。そして、私が特に好きだった先生の名前(これも失念していたのですが)が、クロイツカム教授だったということも、チェックしました。私が気に入っているクロイツカム先生の名場面は、ちびのウリーが紙くずかごに入れられ高くつるし上げられてしまった教室での話です。

 「だれがやったんだ?」と、教授はたずねました。「もういい。きみたちは白状しないんだな。マチアス!」
 マッツは立ちあがりました。
 「なぜきみはとめなかったんだ?」
 「あんまり大ぜいだったんです。」と、ウリーが空中から説明しました。
 「おこなわれたいっさいの不当なことにたいして、それをおかしたものに罪があるばかりでなく、それをとめなかったものにも罪がある。」と、教授は説明しました。「この文章をめいめいこのつぎの時間までに五へんずつ書いてこい。」
 「五十ぺんですか。」と、セバスチアンがあざけるようにたずねました。
 「いや、五へんだ。」と、教授は答えました。「一つの文章を五十ぺんも書けば、しまいには忘れてしまう。セバスチアン・フランクだけは五十ぺん書け。文章はわかっているか、マルチン?」


 「行われた一切の不当なことに対して、それを犯した者に罪があるばかりでなく、それを止めなかった者にも罪がある。」
 「一つの文章を五十ぺんも書けば、しまいには忘れてしまう。」
 この二つの名文句により、教授は私にとって永遠の存在なのでした。(名前、忘れてたけど。)この二つの文章は、私にとり生きる指針の一つです。(志としては。なかなかそうは生きられないんですが。)

 話はころりと変わりますが、26日にNHK大河ドラマ新選組!』の総集編を見ました。そして、なぜ私はこれを毎週見なかったんだ!もう見たくても放映はない、しまったああ!という後悔に襲われたのでした。つまり、とても面白かったんです、はい。今後、土方歳三について考えるとき、山本耕史の顔が浮かぶだろうな。山南さんも源さんも近藤勇局長も好きですが、私には副長土方が一番好みかも。リーダーではなく、リーダーを支える役回りという所がね。(土方については全てが気に入っているわけではなく、美学はあっても思想・哲学がなさそうな点が惜しいんですが、演じる山本さんは本当によかったですねえ。それに、三谷幸喜さんの土方の描き方もよかった。うーん、これでは、土方をほめてることにならないか。)
 で、総集編に野田さん演じるところの勝海舟が登場し、海舟ファンの私にとっては一粒で二度おいしい感じでした。野田版海舟、『海舟座談』や『氷川清話』で私が描いていた海舟像を彷彿とさせていて、よかったです。

氷川清話 (講談社学術文庫)

氷川清話 (講談社学術文庫)

海舟座談 (ワイド版 岩波文庫)

海舟座談 (ワイド版 岩波文庫)

 この二つの本、内容も面白いのですが、なんといっても海舟の語り口がいいんです!この人、こういう風に話すんですよね。

 「六(むつ)かしいのが財政だ。幕府は、収入テイのは、八百万石、運上金が八万両、山林な どが百万両だよ。京都を粗末にしたようにいうけど、この中から五十万両、そのほか色々と出 さあナ。…誰だか、『徳川の時はひどいことをしたのだから』と言ったっけ。己(おれ)は黙 っていたが、あとで、スッカリ細かに書付けにして出したら、驚いてネ、『早くそう言って下 されば善いに』と言うから、『そうでンすか、徳川のことですから、役にャア、立ちますまい と思っていました』と言ってやったよ。それで、あとで、公卿が来て、『とても徳川の時には 比べられません』と言ったッケ。」『海舟座談』

 こんな調子で人物批評や世相批判から幕末の思い出話まで語るわけです。自伝要素の濃い『氷川清話』の方はもう少し、きちんと話してますが。(「おれが子どもの時には、非常に貧乏で、ある年の暮れなどには、どこにも松飾りの用意などしているのに、おれの家では、餅をつく銭がなかった。」ってな具合に。)
 ここまで長くなったついでに、海舟の父親、勝小吉の自伝も紹介します。題名は『夢酔独言』。

夢酔独言 他 (平凡社ライブラリー)

夢酔独言 他 (平凡社ライブラリー)

 勝小吉が42歳の時に書かれたこの自叙伝、話し言葉で書かれているため、江戸末期の言葉がどんなものだったか分かる貴重な本だと昔なにかで読んだような気がします。なにせ、この自伝、いきなりこう始まるのです。
 「おれほどの馬鹿な者は世の中にはあんまり有るまいとおもふ。故に孫やひこのために、はなしてきかせるが、能々不法者、馬鹿者のいましめにするがいゝぜ。」
 いや、続きを読みたくなるではないですか。(なりません?)伝法な感じ、粋な雰囲気もあって。

 という辺りで、本日はこれにて。そろそろまた、短歌に戻ろうかな。

 はるる