細雪

 完全に連休モードで、ついつい久し振りに読み返してしまった『細雪』。昔、大谷崎にはまって全集まで買ってしまったきっかけになった本です。10数年ぶりに読み直しました。

細雪 (中公文庫)

細雪 (中公文庫)

 あらためて、大谷崎は本当に偉大な作家だと感じました。すっかり心は戦前の芦屋にタイムスリップ…。どっぷりと『細雪』の世界に入り込んで、言葉まで大阪弁になりそう。
 
 今回この本を読んで、やはり雪子さんは苦手な女性だなあと感じました。自分が何を考えているか決して明確に表現せず、「ふん」と言うだけ、そのくせ自分の意志はあって、いやとなったら梃子でも動かないという、すっごく困った女性で、でもとても魅力的に書かれている。
 私は四国の山猿の朴念仁なので、見合い相手が最初からいやなら最初の段階でいやと言えば、こんなに話はややこしくならず、他の人にも迷惑をかけないのに、雪子さん、いい加減になさい!と言ってやりたくなってしまい、とても幸せな読書時間なんだけど、なんかストレス溜まるという読書体験。あーしんど。

 同じ姉妹の話でも、幸田文の『きもの』は『細雪』とはすごく違う印象を受ける話で、作家が男性か女性かも絶対影響しているという気がしました。舞台が関西か関東か、没落したとはいえど(少なくとも)生活の感覚、生き方が上流か、とことん中流か、時代も関東大震災の頃か第二次大戦突入の頃かなど、いろいろなことが違うから、違って見えて当然なんですけどね。やはり谷崎の女性の造形には、女性崇拝的なところがある感じがするし、幸田さんの女性は、女性だから書ける、ある種の冷徹な観察が入る感じがします。『きもの』で好きな登場人物は、主人公のるつ子と彼女の祖母です。特に、このお祖母さんは私にとって「老賢女」で、(小説の中の人物だけど)尊敬しています。

きもの (新潮文庫)

きもの (新潮文庫)

 はるる

追記
 『細雪』を読むと、いつもこの後、この人たちの運命はどうなったろうということがとても気になります。特に、小説の最後で結婚にこぎつけた雪子と御牧の二人は、戦後の混乱期、上手く生き抜けたのだろうかと。
 谷崎がもうなくなってしまう世界を記録しようとしてこの小説を書いたというのも、分かる気がします。すごく儚い。だからこそ、こんなにも素晴らしい小説世界なのでしょうか。何のかんの言っても、私は『細雪』という小説が好きなんだなあ。