ベネディクト16世

 やっとこさ、買ってあったTIMEとNewsweekによる新教皇に関する特集を読みました。(いきなり話は脱線しますが、なんでTIMEもNewsweekも日本で買ったらこんなに高いんでしょ。あんなに薄っぺら〜なくせに、一冊が800円だの840円だの。定期購読させる狙いでもあるのでしょうか?)

 閑話休題
 Newsweekは、(アメリカの)カトリック信者にとってベネディクト16世はどういう意味を持つかという視点から記事(The Vision of Benedict XVI)を書いているという印象を受けました。焦点が教皇その人というより、受け入れる側の信者にある感じ。ちなみに、アメリカ人信徒の目には、新教皇枢機卿時代のイメージから脱して、世界により穏やかな(ガチガチの保守派ではないよという)イメージを示さねばならないと映っているそうです。
 そして、この記事によれば、全生涯をかけて訓練されてきたベネディクト16世独自の使命は、西洋の再福音化(The re-evangelization of the West)だとか。確かに聖ベネディクトはヨーロッパの保護聖人でしたねー。ヨハネ・パウロ2世が東ヨーロッパの解放とアフリカ、アジアでの教会の拡大を助けたのに対し、今の教会の新しい使命は、ヨーロッパ、アメリカ合衆国、そしてラテン・アメリカの信仰を強化し支えることで、新教皇はその使徒というわけですね。しかし、ヴァチカンが、もとからカトリックの地域にもっと力を入れるとなると、後からカトリックの地域は不満を感じるようにならないかなあ。ヨーロッパ中心主義とかヴァチカン中央集権主義といった不満が出てこないか、ちょっと心配です。

 他方、TIMEは、ヨハネ・パウロ二世の時、あまり教皇本人に焦点を当てなかった代償ででもあるかのように、新教皇について、かなり深くいろんな側面から書いている感じです。興味深かったのは、神学面から掘り下げて教皇の姿勢を見ようとした The Turning Point という記事。このように神学的見地や教皇キリスト教信仰の核心部分からベネディクト16世を見る必要があると考えさせられた、私にとってはためになる記事でした。保守だ、リベラルだとまるで政治の世界のことのような、これまでの多くの語り口では、やはり違和感がありましたし、教会のことを保守/革新といった観点からだけ見るのはおかしいと思っていたので。
 この記事の中に、ベネディクト16世は聖ボナヴェントゥーラと聖アウグスティヌスの影響を強く受けており、この二人の聖人は、世界をordo(God's all-inclusive order)に制御されているという世界観を抱いていたという指摘があり、あ、それで新教皇のこれまでの現代世界への態度が少し理解できるかなと思いました。
 あと、1968年にラッチンガーが決定的に変化してしまいますが(ここでキュングと袂を分ってしまう)、それは当時吹き荒れていたドイツの学生運動によるという話も、興味深かったです。この学生運動マルクス主義の色濃いものだったこと、十字架像をサドマゾだと罵倒するなどかなり過激なものだったことが、秩序を重んじたい(であろう)ラッチンガーのものの見方に強い影響を与えたのではないかと思います。こういった観点からも、彼の解放の神学への反対の背景を少し読み解けるかも知れません。

 ところで、ここからは完全に余談ですが、TIMEにのっていた、同性婚、中絶に反対という点で共通項があるブッシュ大統領がべネディクト16世を褒め称えている言葉を読み、ふと、かつて立ち読みしかけた本を思い出してしまいました。パラッと覗いただけなので、題名も定かではないですが、確かGay people 100 みたいな題でした。

 ある時、シカゴの本屋にこれがどっと平積みされていたのです。それで、好奇心にかられて、どんな人が選ばれているのかなあと(よせばいいのに)私はその本を覗いてみました。確か、古代から現代までの有名なゲイの人(オスカー・ワイルドとかね)を選んであったと思いますが、古代篇でダビデ王が選ばれていたのは、まあまだ理解出来るとして(旧約聖書ヨナタンとの「友情」は、そう解釈されても仕方ない側面があると思う)、目が点になったのは、「アウグスティヌス」が挙げられていたこと。
 はあ?あの教会博士のアウグスティヌスが?な、なんで??
 私はあまりにも動揺して、そのページを読む勇気がなく、パタンと本を閉じて足早にその場を立ち去ってしまったのでありました。で、しばらく後、やはりどういう理由でそうなのか読んでおこうと思って再び売り場に行ったら、もう一冊もなかったのです、その本。全部売れたのかなあ。シカゴはゲイが多い街で、その本屋さんはゲイの人たちが多く住んでいる地区の近くにあったし…。その後も、いろんな本屋さんに行くたびに、それとなくその本を探したのですが、とうとう出会えず日本に戻ってきてしまいました。なぜアウグスティヌスがゲイだとされるのか、今でも理由が気になる私。

 とここまで書いて、去年 New York Times に、共和党のヒーローであるリンカーンがゲイであり、その相手はJoshua Speedという人物だという研究書がアメリカで出版され、論議を呼んでいることについての記事があったことも思い出してしまいました。ゲイ・カップルに厳しい態度をとるブッシュにとり、こともあろうに共和党が誇るリンカーン大統領がゲイなどと主張する本など、さぞかし許しがたいでしょう。もっとも、私は知りませんでしたが、リンカーンセクシュアリティについては、長年議論され続けてきたことなのだそうです。別の研究者は、リンカーンボディガードが彼の愛人だったという説を出しているらしい。うーむ(^^;)。もちろん、リンカーンはゲイではないと主張する研究者もたくさんいる模様ですが。

 なんにせよ、性って難しいですね。教会が性に関することを何か言おうというのが、そもそも間違いなのかも知れないし。教会と同性愛の問題も、一度自分なりに整理しておく必要がありますねえ。

 はるる