カラシニコフ

 お待たせしました(?)。『カラシニコフ』について書きます。

 これは、朝日新聞に連載されていたもので、アジアやアフリカ諸国で起こる内戦やクーデタの際には必ず登場する悪名高い銃カラシニコフAK47)を切り口にして、特にアフリカの状況を描いたノンフィクションです。(うーむ、本をまとめるのは難しい。二ヶ月も前に読んだきりの本となればなおさら!-_-;)
 設計者ミハイル・カラシニコフ氏(世界でもっとも流布している銃の設計者は、月給400ドルのアパート住まい)をめぐる章もなかなか興味深かったのです(AK47を製造する会社がAK47は安くて性能がいいから日本政府が買ってくれるように記事を書いてくれと売り込むくだりとか、おおっと思いました。自衛隊は一丁35万円の国産小銃を使用しているんですねー。知らなかった…。AK47は一つ120ドルだそうな)が、圧巻はやはりカラシニコフが溢れかえるアフリカ諸国の実情を描いている各章でした。
 手入れしなくても使え、踏んづけて変形した銃弾を使用しても問題なく、水浸しで一晩ほっておいてもびくともせず、子供でも扱えるほど構造は簡単。しかも、安い。こうした理由で、この銃はアフリカをはじめとする紛争地帯に氾濫し、少年・少女兵を生み出し、その国の将来をめちゃめちゃにしていきます。
 この悪魔的といいたくなるような連鎖も恐ろしいですが、それに続く「失敗した国々」の話も読んでいて青くなります。
 「失敗した国」かどうか、見分ける基準は二つ。
1「警官・兵士の給料をきちんと払えているか」(国民の安全な生活を守る義務)
2「教師の給料をきちんと払っているか」(国家の将来の基盤となる教育を守る義務)
おまけ「官僚の半数以上が子弟を欧米の学校に行かせたり、家族を国外で生活させている国」(政府幹部自らが自国の行政を信じていないから。)

 治安と教育を守り、国民に確実に提供することは、政府がすべき最低の義務ですが、それが出来ない国々が世界にはある。こうした国家の態をなさない国は、アルカイダなどの隠れ家と化していく。読んでいて、どよ〜んと落ち込んでしまいました。
 しかし、そんな状況をアフリカの国々のせいにしたり、アフリカ人は独立するのが無理なんだ式の断罪をして済ませられないんですよね。
 あとがきで、著者の松本さんが、日本政府はODAを「失敗国家」にも渡してさらなる失敗国家にしていくと書いておられますが、そうした援助のあり方や、アフリカ諸国で紛争が起こる背後には、第一世界の石油やダイヤをめぐる利権の問題が絡み、武器援助の問題が潜むわけで、私たちは、弱い立場にある国や人々を踏みにじっているのだということを、ひしひしと感じた一冊でした。

カラシニコフ

カラシニコフ

 少なくとも私の中には、アフリカははるかに遠い場所で、そこで内戦が何年続こうが、虐殺が起ころうが、飢餓が長引こうが、それはただの他人事、アフリカ人がたくさん死んでも私の生活には関係ない、かえって世界の人口が減っていいわ位にしか感じられない、恐ろしいほどの無関心、冷淡さがある。そのことを改めて突きつけられて、がっくりしました。
 先日見たNHKスペシャル「アフリカ・ゼロ年」で、ルワンダで虐殺が始まった時、ある国連軍関係(だったけ?)の白人が、白人一人の命とルワンダ人7万人の命がイコールであるという発言をしたというのがありましたが、これが第一世界の正直な気持ちなのかも。アメリカ人3000人テロで殺されたら、あんなに記念していろんなセレモニーをやって戦争も二つ起こしているのに対し、世界はルワンダを見捨て、リベリアを見捨て、ソマリアを見捨て、今はスーダンを見捨てて、何もしない。(私は見捨てている一人なので、こんな偉そうなことを書く資格は本来ないのですが。)
 スーダンだけでも既に40万人が虐殺されたということですが、国連はあくまでも内政問題として、ジェノサイド条約も適用させず、無視している。
 うーん、国連って何の役に立っているわけ?イスラエル問題についても、ルワンダの事件の時も、現在進行中のアフガニスタンイラクの問題に対しても、無策だし。

 …よく知らない問題にこれ以上、偉そうにあーのこーの言うのは慎みます。

 私は勝手に『ドキュメント 戦争広告代理店』と『戦争請負会社』を『カラシニコフ』と合わせて三部作としてセットにしていますが、こういうの読んでいると、本当に気が滅入ります。
 でも、希望なきところにも希望を持つのがキリストを信じる者だと思っているので、絶望しないでやれることからちょっとでも始めるしかないですね。(絶望って大罪の一つだっけ?)

 

ドキュメント 戦争広告代理店―情報操作とボスニア紛争

ドキュメント 戦争広告代理店―情報操作とボスニア紛争

 
 
戦争請負会社

戦争請負会社

 情報操作といえば、次の本も興味深かったので挙げておきます。

 

Weapons of Mass Deception: The Uses of Propaganda in Bush's War on Iraq

Weapons of Mass Deception: The Uses of Propaganda in Bush's War on Iraq

 アメリカがどのようにイラク戦争に関してプロパガンダしたかを描いている本です。第一次湾岸戦争の時、クウェートを解放したアメリカ軍に向かって人々が振っていたアメリカ国旗は誰が配ったかなんて話から始まって、PRの凄腕プロを引き抜いてアラブ世界に「民主主義」を売り込もうとして失敗した話とか、平和を求めるアピールのためにテレビ広告の時間を買おうとしたグループは全ての大手ネットワークから拒絶されてしまった(MTVですら拒んだ!)とか、いろいろ載っています。
 アメリカのイラク攻撃の時、私はちょうどアメリカに住んでいましたが、家で取っていたChicago Tribuneは、戦争の間中、毎日、天気予報欄にイラクの天気も併せて掲載してました。こういったマスコミの態度が不愉快だったものです。特に、FOXTVは、ニュースをドラマにしている感じで、とにかく何から何までいやでした。

 ちなみに、この本の表紙に載せてある、ブッシュ監督と主演男優のフセインビン・ラディンのやりとりは以下の通り。
ビン・ラディンアメリカが打ち負かされるまで、お前の頽廃した政権を倒すのを待っててやるぜ、この不信仰野郎」
フセイン「上等だぜ。そうすぐには、お前とお前のお仲間を天国には送り込まないでやるよ。」
ブッシュ監督「カット!君たち、もう少しましな演戯をしてくれないと、観客は絶対にこの脚本を信じてくれないだろ。さあ、最初から!いいかね、覚えておいてもらいたいんだが、君たちは仲のいいお友達だとみなされているんだからね!」
 
 ブッシュ監督、脚本、完全に破綻してますよ…。

 はるる