幕間

 いきなり、話はジュリアンからそれます。
 ジュリアンの神学をちゃんと書かなければと思ったら頭が勉強モードになってしまい、ちゃんと関連本を読み直さねばと書けないという気持ちが先に立ち、しかし、今はジュリアン関連の本を読み直している暇がないため、ちょっと時間下さい状態になっています。

 で、その間、これ息抜きにどうぞ、と友人から手渡されたマンガ、『ダーリンは外国人』1・2巻を読みました…。

 そう、かのベストセラーですね。「外国人の彼と結婚したら、どうなるの?ルポ」と副題が語るとおりの内容で、漫画家の小栗さんがハンガリーとイタリアの血を引くアメリカ人のトニー(ジャーナリスト)と共に生活する中での出来事が描かれてます。というより、小栗さん自ら述べているように、トニーという人物が面白いので観察日記つけているというのが正しいみたい。
 トニーさん、いいですね。私はこういう人になりたいと思いました。前向き思考、すばらしい集中力。うーん、いいわあ。
 トニーさんの値切り交渉を読んで、自分もやってみたくなってしまった、身の程知らずの私。 トニーの値切る!9ヶ条は、予想以下の安い値段を提示されても、驚いた顔をしない、がっつかない、どにかくどこでも聞いてみる、とにかくがっつかず、最安値を求めて聞きまくる、最低の値段を言った担当者の名を聞いておく、念を押す、たたみ込む、まとめ買いするという、最後に無理を承知でもう一押し!…だそうです。気の弱い私に、果たしてできるか!?

 ところで、この本の中にトニーさんの好きな日本語の話があって、それが「時期尚早」というのに、私は大いに受けてしまいました。時期尚早…ですか。音がよくて言葉に力があるそうです。そうかなあ?

 これを読んで、私は自分の好きな英語の言葉って何だろうと思ってしばし沈思黙考してしまいました。
 Be stillなんて、本当に静かになる感じがして好きだけど。うーん、もうちょっと「時期尚早」に匹敵するようなのは、ないか?(いまだ考え中。考えて出てくるようなのは、好きな単語とは言えないのでは?という疑問が浮上してますけどね。)

 いい頭の体操になるかも。御用とお急ぎで無い方は、それぞれかじった外国語で好きな単語、言い回しを考えてごらんになっては?

 さて、トニーさんに刺激され、日本語への興味を掻き立てられた私は、いきなり、丸谷才一さんの本に走りました。実は、この方のファンでして、私。
 それで、手にしたのが『日本語で生きる』。

 

 私としては、まずは冒頭の国語教科書批判にやんやの拍手を送りたい!そうなのだ、私も小学校のころ、なぜ自分が宿題として詩なんぞ書かねばならないのか分からなかったし、教科書に載っていた詩を少しもいいと思えなかった。(もちろん、ちゃんとした詩人の詩は別ですよ。)本当に、「えん筆で/ざくろをプチュとつぶす。/ピンクのしるの水鉄ぽう」なんどという愚にもつかないものを、なにゆえ日本の子供は読まねばならなかったのか?丸谷さん、よくぞ言ってくださった!(もっとも現今の国語教科書がどうなっているのか、知らないけど。)
 私が詩について大きな勘違いをしていたのも(今でもしてる気配濃厚だが)、詩が嫌いなのも、もとを糾せば文科省のせいだったのだ!(ホントかいな。)

 かつて、『不実な美女か 貞淑な醜女か』という本に、ロシアの国語教育について書かれてあり、それが日本のやり方と東と西ほどにも違ったので、衝撃を受けた記憶があります。(この本だったはず。)
 

不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か (新潮文庫)

不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か (新潮文庫)

 
 今、手元に本が無いので、はっきりとこれこれとその教育法を書けないのですが、確か小学校において、ある主題で作文を子供に書かせる場合、その主題に関する一流作家の名文を大量に読ませ、きちんと分析させた上で作文させるといったことでした。小学生にも遠慮なく一流の作家の文章をどんどん読ませる、これが国語教育の根幹をなしていたと記憶しています。
 また、フランスも子供にラシーヌとか一流の文章をどんどん読ませると聞いた気がします。そして、数学であっても、全てきちんと文章で解答を説明させるとも。
 荻野アンナさんが何かのエッセイで、かつて荻野さんがフランスでフランス語を学んでいた折、試験があり当然穴埋め問題とかがいっぱい出ると思ってせっせと準備し、いざ試験会場でテスト問題を見たら、「複合過去について論ぜよ」(いや、もっと高度な設問だったと思うのですが、思い出せないのです)という一文があるだけだった、という話を書いておられたのを読んだことがあり、さすが、フランス、すご過ぎる〜と思いましたが、フランスの姿勢は終始一貫してますねえ。

 そして、丸谷さんが主張する国語教育の根幹にも、名文を子供の時から読ませる、これしかありません。
 近代日本語でしっかりと論理的に達意の文章を書けるようになるために、明治以降の日本人は苦闘してきたし、今も日本語を作り上げる努力の只中に私たちはいます。だから、なおさら日本は言語教育にきちんとした見識を持つ必要があるんだなということを、つくづく感じました。

 ともあれ、私もこれからもっと名文および漢文をたくさん読んで、少しでもましな日本語を書く努力をしよう。日本語の口語文はいまだに完成していないそうですから。そして、口語文を作り出してきた明治、大正の小説家たちの文章の骨格は漢文だったそうですから。
 このあたりのことは、丸谷才一さんの『文章読本』をどうぞ。面白いですよ。また、この本には各種の名文がたくさん引用されており、本当に読んでいて気持ちいいです。

 

文章読本 (中公文庫)

文章読本 (中公文庫)

 あ、そうそう、先日出た丸谷さんの『いろんな色のインクで』もよかったです。この方の手になる書評を70本以上読めたので。この方の書評には芸があるので、好きなんです。須賀敦子さんのにもありましたが。いい文章を読むと、本当に幸せな気分になりますね。
 

いろんな色のインクで

いろんな色のインクで

 では。そのうち、ジュリアンに戻ります(^^;)。

 はるる