英米の視線

 フランスの若者の暴動について、関心はあれども目先の仕事に追われて、なかなか自分の考えをまとめられません。(たいした考えがあるわけではないけども。)
 フランスに住む友がイギリスがフランスに対してかなり手厳しい報道をしていると書いてきたので、どれどれと、いくつか英米の雑誌を読んでみました。
 まず、The Economist。表紙からしてすごいです。燃え盛る車を消火せんと立ち向かう消防士、立ち昇るオレンジの炎を背景に白抜きの字でFrance's Failure.
 そして内容も表紙に負けてはいません。延々と語られるフランスの「事情」。
 フランス全体の失業率は10%近く、それだけでも十分不安材料なのに、最近の若者の失業率は23%で、ヨーロッパ最悪、そして「郊外」に住む若者のそれは40%。フランスの若者にとり「ちゃんとした職」は高嶺の花。就けた仕事の70%は一時的なものに過ぎない。(要はフランスの若者もフリーター状態ってことでは?)
 マルチカルチャーの観点から見ても、イギリスとは対照的なフランス。イギリスではマイノリティグループ(ムスリム含む)から国会議員になった人が現在15人いるが、フランスは(海外県を除けば)ゼロ。イギリスの有名なテレビのニュースキャスターに肌が黒かったり茶色だったりする人々が何人もいるが、フランスのニュース番組のアンカーはほとんど白人のみ、警察だって白人ばかり。肌の色が白くない人々はエンターテイナーになるかスポーツ選手になるしかない。(これは、日本における在日コリアンのちょっと前までの立場にかなり似ていますね。在日の人々の失業率も高度成長前は80%近かったはずだし。)
 とまあ、こんな調子でイギリスはうまくやっているが、「自由、平等、博愛」と謳うフランスは口ばかりと叩いています。イギリスって、そんなに威張れるのかなあ??
 この記事で、今回の暴動はイスラム教と関係ないと指摘されている点は興味深かったです。これはやはり、グローバリゼーションの全世界的な動きと関係させて考えないといけない事件なのだろうなあ。

 それに対し、大西洋の向こうから、イギリスだって大変だろと見ているのが、アメリカ。アメリカのどの雑誌だったか、どうしてフランスにはあんなにアフリカ系がいるのか、それはかつて植民地支配を行ったからで、今そのしっぺ返しを受けているのだと書いてあり、それに比べてアメリカはそんなことしてないもんね、という主張が透けて見えるように感じたのですが(深読みのしすぎ?)じゃあ、アメリカにあんなに黒人がいるのは何のせいよと言いたくなってしまった私です。奴隷貿易と植民地支配とそんなに変わらんでしょー。アメリカだってフィリピンを植民地にしたし、メキシコへの仕打ちを考えてみたまえ。とにわかに説教おばさんと化す私。
 
 ところで、U.S.News&World Reportには、ムスリムをどのように社会統合するのかという視点から記事が書かれています。イギリスで増えつつあるムスリム・スクール。。そうした学校はイギリスの規定にしたがって、政府が援助しているが、イスラム教に基づく学校にイスラムの人々がいくというあり方は、30年後、吉と出るか、凶と出るか。(ところで、学校現場を徹底的に世俗化したフランスすら、約10のムスリムスクールに政府からお金を出しているんですね、知りませんでしたわ。)
 最後にThe Challenge of Islamの著者であるJytte Klausenさんが言うには、「この暴動は、政府関係者たちに、社会に統合するための重荷をイスラム教徒の移民の肩にのみ載せるべきではないのだという確信を持たせるという効果を生んでいる」そうです。そう、移民だけが当事者ではない、移民を受ける社会の側も当事者なんですよね。
 で、別の人がCommentaryで、ドヴィルパンは支配階級エリートの態度の最悪部分を体現していると書いてました。首相は確かにフランスのエリート教育を受けてきた精鋭なんでしょうが、この書き手は、ドヴィルパンの説明を、アメリカ人にはあの国連でのアメリカのイラク攻撃をめぐる苦い討論で知られるあの人物という風に書いていて、なんだか、江戸の敵を長崎でじゃないが、国連の敵をパリ郊外でって気もしますです。

 The Newsweekは、出だしに1995年のシラク大統領の演説を引用してますが、この演説の内容が、今されたのかと見まごう内容。10年前も、郊外の失業問題を語っていたシラク、そう、ニューズウィークは10年の間、何をしてたのかね、シラク、と皮肉っているのでありました。厳しいね。
 
 とまあ、長々書きましたけど、なんだか自国にひきつけて考えるというより、フランスの問題(あるいはヨーロッパの問題)として突き放して書いてあるスタンスが気になる報道でありました。

 で、今私が読もうとしているのが、『階級社会』なのでありました。

 

階級社会―グローバリズムと不平等

階級社会―グローバリズムと不平等

 ちなみに今、ちょびちょび読んでいるのは、『ネオリベ現代生活批判序説』です。かつて、自分が働いていた組織のことが出てくるので、つい買ってしまったけど、結構いい本だなと思います。

ネオリベ現代生活批判序説

ネオリベ現代生活批判序説

 では。はるる

追記:上野千鶴子さんの文章を転載してあるサイトを見つけたので載せておきます。
   http://blog.goo.ne.jp/midorinet002/e/ef4e728ecffcdf0eaa64df3c8e075903