独身税に食育基本法案に…

 『言論統制列島』を図書館に返却しないといけないので、その前に自分がおおっと感じた部分のいくつかをここにメモとして書いておこうと思います。

斉藤: 被害者としての戦争だけしか考えたことがないと、海外派兵も戦争のできる憲法も、特に悪いことだとは思えなくなるんですよ。だって今の日本あるいは米日連軍、というより日本の親会社であるアメリカは世界最強なんだから。どこで何やったって、おれたちが巻き添えを食うことはないじゃん?だったら戦争も、“国益”になるんならOKかも、なんて思考回路に、今のこの国は完全に陥っています。(110p)

 これって『暗黒日記』の中の昭和19年以降、日本人は初めて本当に戦争を体験しているという記述と響きあうなあ。

斉藤: 今度、食育基本法案というのが国会に提出されたんですが、これも国民の責務なんですね。(中略)要するに、食べ方を決めるの。「食に関する感謝の念と理解」とか「食に関する体験活動と食育推進活動の実践」などをうたいつつ、こんな条文が用意されているんです。「第13条 国民は、家庭、学校、保育所、地域その他の社会のあらゆる分野において、基本理念にのっとり、生涯にわたり健全な食生活の実現に自ら努めるとともに、食育の推進に寄与するよう努めるものとする。」
 (143〜144pp)

 なんでこんなこと、政府から法律で言われなきゃならないのでしょーか。

斉藤: 自民党独身税導入という話が浮上しているって話、したかな?
森:  子供つくらないと税金とられるの?(中略)
斉藤: 同じ発想は、戦時中の日本にもあったんですよ。(中略)ちょっと詳しいことははっきりしないんですが、(中略)1941年(昭和16年)の一月に閣議決定をされたことまでは間違いない、と。ただ、実際に、どうやって徴収されたかという点については、研究の蓄積がなく、人によって記憶も曖昧でよくわからない。(中略)仙台の『仙台文学』という同人誌に独身税のことを書いた人がいて、それを取り寄せて見たんですよ。すると、この人の昭和16年のときの日記に、独身税を4円50銭とられたという記述があるんです。(中略)独身税閣議決定を受けた当時の朝日新聞のコラムには、男25歳、女は21歳になったら結婚して5人は子どもを産むのが国民の義務だ、なんて書かれていたそうだけど。
鈴木: それまでに結婚しなかったら?
斉藤: 税金をよけいに取ると。(160〜162pp)

 
 斎藤さんは今回の独身税のネタ元はローマ帝国だと話してましたが、うーむ。
 「女は子どもを産む機械」と言ってしまった閣僚もいらっしゃいましたね。
 独身だろうが、既婚だろうが、子どもがいようがいまいが、国家に介入されるいわれはないと思いますけど。神父、修道者受難の時代はすぐそこか!?
 

鈴木: 政治家になるっていうのは、人の生き死にまで左右できると思ってて、やっぱり快感なのかな。(中略)左翼も右翼も、リーダーがそうですからね。ある意味じゃ、組織のトップになるっていうのは。それがさらに大きくなれば、もっとすごい。人のために何かやりたいというより、人の生き死にを自分が左右したいと。そのことで、やっぱり自分がものすごい力を持った、もう神になれると思うんじゃないですかね。
斉藤: 思っているんでしょう。でも、そう考えると、森善朗の「子どもも産まない女が年をとってから福祉を受けるのはおかしい」なんていう発言がつながってきて、現実味を帯びてくるわけですよ。(165p)

 やはり人の上に立つというのは、すごい誘惑なんだなあと感じた次第。本当にトップがここで言われたようなことを感じているのかどうか分りませんので断罪できないですが、大変ですね、トップになるということも。

 ところで、「子どもも産まない女」ってそんなに価値がないですかね。私も産んでませんが、福祉を受けなきゃいけないときは、受けてやるぞ〜。一人の人が人間として存在しているということが尊いのだから。

斉藤: 今のいわゆる右派の人たちというのは、古い自民党の右翼体質と違って新自由主義ですから、そうすると、男女共同参画じゃないと労働力が足りなくなるんです。 よほどのエリート以外は、非正規職員に置き換えていく。どんどん待遇が悪くなるから、専業主婦なんてものはぜいたく極まりないものになっちゃうわけ。
  共働きでなければ生活できない人が大部分を占める社会では、男女共同参画をうたわないことにはどうにもならないと。男女平等とはあえて言っていないところがポイントなんです。それは企業側のニーズなんです。ということは、女性は相変わらず安く使えるから、安い労働力を供給させたのが男女共同参画というのが本質なんだけれども、古い保守派の人たちはそれさえも気に食わない。(170〜171pp)
 (中略)
  ほんとうは、共同参画で女性を働かせるからには学童とか託児所とか、そういう子供を預かる施設や社会保障がよほど充実しなきゃおかしい道理だけれども、そこは新自由主義ですから切り捨てていく。しかし、現実に子どもも年寄りもいるから、じゃあ家族が引き受けろとなり、大抵女が引き受けることになってしまう。つまり、今のところ、結果的に女性のノンエリートがマイノリティになっていくんです。(174〜175pp)

森: でもふと周囲を見渡せば、規制や抑圧を意識下で求めるメンタリティが、いつの間にかメディアだけの問題ではなくて、社会全般に滲み始めている。今回の鼎談でずっと話題にしてきたセキュリティへの希求です。弾圧でも抑圧でもない。僕らが求めるから、国や警察権力は、そこまで言うのならやっちゃいますよとばかりに、規制や治安を強化する。(188p)

斉藤: 希望が持てる人に比べ、持てない人はもう持ちようがないという。
鈴木: そうすると、みんな右翼になるしかないんですよ。
斉藤: 国家にしがみつくしかない。
    だけど希望さえ見失った人なんか、国家はもうあからさまに見下しているわけだから。本人は国家に殉じるつもりでも、体よく利用され、棄てられていくだけ。
(205p)

森: 最近ほんと感じるのは、かつてならそれを言っちゃおしまいでしょうというレベルが、どんどん普通になってきているよね。最近では、石原慎太郎が『週間ポスト』に、今の日本人が緊張感を失った理由は、この60年間戦争をしなかったからだと書いていた。メタファーじゃなくて、だから戦争は必要なのだという論旨です。でも全く問題にならない。舌禍のハードルがすごく低下している。それが怖いというか、それに対して絶対抗いたいと思うんだけど。ところがそこで抗うと左翼だって言われちゃう。(208p)

 今まではタブーとされていたどきついことを言えば言うほど、現実をよく見たりっぱな意見というような空気があるようにも感じますが、そんなことを言う私も「左翼」なのかしらん^^;。オーララ。

はるる