打ち砕かれた魂

 前回の公民権運動に関して、ジョン・パターソンと話していて、パターソンがこの問題は自分とボビー両方を政治的にダメにするかもしれないと言ったのに対して、RFKが答えた言葉を付け加えたいのでここに書いておきます。 
 ボビーの名せりふの一つと私は勝手に思っています。

 Now, John, don't tell me that. It's more important that these people survive than for us to survive politically.
(拙訳:「ジョン、それは言わないでくれ。僕たちが政治的に生き延びることよりあの人たち(黒人)が生き延びることのほうがもっと大事だろう。」
Robert Kennedy and His Times 298p

 RFKがRFKになる萌芽が既に見られますねえ。


 ところで、司法長官時代の彼もそれ以前の彼も興味深いですが、私にとっては1963年11月22日以後のRFKこそが意味があるので、今回はその話をば。

 どのRFK本も口をそろえて指摘するのは、JFKの暗殺がRFKを完全に打ちのめし、打ち砕いてしまったということです。
 
 ジョンの死後、彼はただ茫然と司法長官室の窓から外を見ていたり、何時間もひたすらワシントンDCの街をさまよい歩いたりして、ある側近の言葉を借りれば「使い物にならなくなった」状態をしばらく過ごしました。
 ある人は、ボビーが泣きながら「何故ですか、神よ、なぜですか?」と繰り返している声を聴いています。
 別のスタッフは、彼は肉体的な痛みの中にいて、彼はいつもの彼ではなくなっており、時々ここには本当にはいないという印象があった、つまり感情も精神もさ迷い歩いていたと語っています。
 息子のRFK.Jrは父はどんどん静かになってどんどん内向的になっていった、そして、たくさんのギリシアの詩を読み始め、その後、いろいろな詩にのめりこんだと言っています。
 

 61年以来、RFKに押さえ込まれていたFBI長官フーヴァーが、この機に乗じてボビーをないがしろにし始め、FBIが司法長官に「反乱」を起こしたとき、あのロバート・ケネディが、ただ弱々しい微笑を浮かべて「彼らはもう、我々とは一緒に働かないのさ」と言ったなどというのを読んだ時には、何の反撃もしないでやられっ放しのボビーなんて〜(T_T)と涙をそそられましたよ。(Robert Knennedy and His Times 629p)
 もう完全に打ち砕かれて、ボロボロだったわけですねえ。ううう。


 以下はニューフィールドの記述です(拙訳です。)

 兄の死後何ヶ月もの間、ロバート・ケネディは、大多数の人々が青少年期に通過しているアイデンティティ・クライシスに良く似たものを経験した。初めて、彼は自分が何者なのかを見出そうとし始めたのである。この探索は、彼自身が撃ち倒されたとき、まだ終えるには程遠い状態だった。自分は声なき人々の声なのかもしれないという考えが彼に浮かんだのは、彼の最後の選挙戦の時だった。それは、人びとが自分を好いてくれるのは彼自身のゆえであって、彼の兄ゆえではないのだという自信となった。
RFK 30p

 被爆者のように、ケネディもまた「生き残った者の負い目」に苦しんでいた。それはもし運命が公正であったなら、彼が死ぬべきだったのであり、大統領は生きているべきであったのにという思いだった。彼はまた、他の犠牲者たち、貧者とか力なき人々に対して、共同体の感覚を感じ始めていた。
 (中略)
 暗殺はまた他の変化を加速化させるきっかけとなった。より優しい人格、長く隠れていて、押さえつけられていた彼の優しさが、表面に出てきたのだ。彼は、彼の兄が象徴していたもの、平和とか黒人とか次世代といったもののロマン化された概念と自分自身を一体化し始めた。彼の深い、悪に対するモラル的な激しい怒りに変わりはなかったが、それは新しい別の出口を見出した。暴力と苦しみが、共産主義の悪魔と道徳的な堕落に取って代わったのである。(後略)
RFK30〜31p

 ボビーは兄の死後、深刻な信仰の危機を通ったと、ある本に書いてありました。JFK暗殺後の彼の精神的遍歴を思うたびに、私は詩編51の一節を思い出します。

 神よ、私の捧げものは打ち砕かれた心。

 私はRFKについて語られたこの言葉が好きです。

ROGER WILKINS: Robert Kennedy became a man who was connected to the world's pain after his brother's death and he could learn about the world's pain.
(ロジャー・ウィルキンス:「ロバート・ケネディは彼の兄の死後、世の痛みとつながった人間になった。だから、彼は世の痛みについて学ぶことが出来たんだ。」

はるる