雪沼に住んでみたい
もう松の内の過ぎてしまいましたが、新年おめでとうございます。
名古屋に戻って参りました。
コメント欄も復活しております。
『いつか王子駅で』『雪沼とその周辺』を年末年始に読了。
堀江さんが紡ぎだす世界は、味気ないファストフード店や大量生産の100円ショップなどは存在しない。
時間を丁寧にかけること、誠実に手作業を積み重ねていくこと、時間の中で蓄積されてきた経験などが尊重されている世界が静かに拡がっている。
そして、そこに住む人々は池澤夏樹氏の解説の言葉を借りれば「篤実」だ。『いつか王子駅で』の人々も基本的にそうだと思う。篤実で謙虚。
更に言えば、この世界の人々はどこかしら不器用だ。
「ピラニア」(『雪沼のその周辺』)の安田さんのように。
ここに描き出された安田さんの姿が私にはとても励ましになって、この短編を何度も何度も読み返してしまった。
特に、安田さんが聡子さんに真剣な口調で自分の料理が下手くそだと告白するくだり。
他の人からはなんで?と思われそうな箇所だけど、私の琴線にピンピン響いて、何回も繰り返しそこを読んだ。
六度目の注文が入って酢豚と中華丼と餃子をワゴン車に届け、布巾をトレーから取りのけたとたんにあがった歓声をしみじみと聞いたあと、安田さんは、正直に言っていいですか、といつになく真剣な口調で聡子さんに話しかけた。あのとき、てっきりあたしのことが好きだとかなんとか言ってくれるのかなって、ちょっと期待したのよ、と妻となった彼女はいまでもときどき冷やかすのだが、安田さんが話したのは、自分の料理がいかに下手くそかという場ちがいな告白だった。望んでこの道に入ったのではないし、店長が病気にならなければいまの店だって任されてはいない。あんなふうに素直に喜んでもらえると、嬉しい反面、なにかがまちがっているんじゃないかと思う。できる範囲のことだけをやって、ろくに研鑽も積んでこなかったような男には、もったいない誤解である、と。(「ピラニア」162〜163pp)
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堀江敏幸さんの文章を、もっともっと読みたい。アニマの読書として。岩清水のように、魂がごくごく呑む感じがする。
それでは、今年もよろしくお願いします。いつまでブログを続けるか、わかりませぬが。
はるる