SICKO(1)

 マイケル・ムーアの『SICKO(シッコ)』をDVDで視聴。

 

シッコ [DVD]

シッコ [DVD]

 これでもか!と示されるアメリカの医療保険の現実に唖然としました。

 驚いたのは、検査や手術を受けたいというとき、先に保険会社にお伺いを立てて許可をいただかねばならないということ。

 えーと、保険ってそういうものでしたっけ??

 保険会社が決定権を握っているため、交通事故に遭い意識不明で病院に搬送された女性は、保険会社の事前の許可なく救急車に乗ったからと保険金の支払いを拒否され、癌にかかった女性は、別に命に別状はない(!)という理由で却下され、その後その癌で死亡。

 22歳で子宮頸がんになった女性は、その年齢でその癌になるはずがないという、あきれ返るような理由で、拒絶された。

 患者の生存率が高く成功の確率が高いものだからと医者が勧めた手術は、あっさりと実験的な手術に過ぎないという理由で拒まれて夫は死亡し、妻は怒りを抑えきれない。

 さらに、保険会社が絡む病院は、入院費用が支払えない患者をタクシーに乗せ、路上に棄てる。
 
 監視カメラが撮影していた、路上に高齢の女性患者を棄てるシーンには度肝を抜かれたというか、自分の目と耳が信じられませんでした。

 ムーアはHMO(健康維持機構)というアメリカの医療システム攻撃と、国民皆保険制度の導入を喚起しようとして、この映画を製作したのだろうと思うのですが、ニクソンが保険会社と結託して作ったという、このHMOってそもそも何?


 ネットで検索してみると、Health Maintenance Organization=HMOなるものは:

従来の伝統的な保険制度とは異なり、HMOの指針と制限に従って患者を診ることに同意した医師や医療関係者によって行なわれたケアだけをHMOはカバーする。

 そうです(英語のウィキペディアからの拙訳)。なんだかここを読んだだけで無茶苦茶な印象を受けるなあ。

 この辛辣な説明書いたのマイケル・ムーアじゃないよね?と思っていたら、ウィキ自体がこの記事の中立性には疑問があるということを書いていた、あはは。

 ……中立的なものはないのかな?

 というわけで、岩崎宏介という方の論文「米国のHMO」(ネット版)から、コピー&ペーストしたのが、下のものです。(これは中立的に書いているような気がする。)

 www.nli-research.co.jp/report/report/1998/07/li9807.pdf

 HMOとは:
 

 会員制健康維持組織。保険会社は病院・医者のネットワークを持ち、そのネットワーク内において、会員に対して行なわれた医療にのみ保険会社は費用を負担する。また会員ごとに担当医が決められ、専門的な治療が必要な場合には担当医の紹介を通じて治療を受けられる。救急の場合にはどの病院で治療を受けても保険金は支払われるが、救急の定義はHMOによって異なるため、まず電話でHMOの指示に従わねばならない。

 保険会社は患者一人当たりに想定される医療費を、実際にかかった費用とは関係なく、人頭割りかつ前払いで病院に対して支払う場合が多い。その場合病院は毎月保険会社からほぼ一定の額を受け取り、治療にかかる費用はその中からやりくりすることになる。このようにコスト削減に対するインセンティブを、病院・医者に持たせることによって、無駄な医療をなくし、保険料を安くしようとしている。

 「救急の場合にはどの病院で治療を受けても保険金は支払われるが、救急の定義はHMOによって異なるため、まず電話でHMOの指示に従わねばならない。」

 なんかこれ、すごいですね。
 それで、事前に通告しなかったと保険金が下りなかったわけか、あの交通事故で意識不明になった女性は。

 
 この論文によれば、マネージド・ケアの代表、HMOは医療の効率化に大きな役割を果たしていると言われているらしいですが、「効率化」というのは要注意の言葉ですよ。

 岩崎氏によりますと、HMOが主体となってつくられた、科学的データに基づく診療ガイドラインを導入したことで、医療行為がデータベース化され、効率的な医療が施せ、かつ無駄な医療を省き、コストが削減されたと言われているみたいです。(これはHMOの功とされていることのようですが、「効率的」とか「コスト削減」という言葉に、私の頭の中で赤ランプが点滅中!)

 米国では1994年から急激に医療費増加は抑制され、減ってきている、と。(そりゃ、あれだけ拒否してればね。)

 そして、この論文が記すHMOの罪が、要するにムーアの映画が取り扱ってきた「ホラー・ストーリーズ」であります。

 この論文が引用したホラー話から二つばかり。

カリフォルニア州に住む27歳の男性は、心臓移植手術を受けた後わずか4日で退院させられた。HMOがそれ以上の入院期間に対する費用を払わないと言ったためである。また、HMOは手術後の感染を防ぐための包帯の費用をも支払わないとした。その結果その男性は死亡した。
(The Enterprise-Record, Jan.21, 1996)

アトランタに住む生後6ヶ月の男の子は、激しい動悸を伴う40度の熱を出したため、母親が午前3時半にHMOに電話した。ホットラインの看護婦は、その母親に、近くの病院ではなく、68キロ離れた所にある、HMO傘下の病院へ連れて行くことを指示した。処置が遅れたため、結局手足を切断しなければならなかった。(Long Island Newsday, Feb.11, 1996)

 一体、どうして、私企業がこんなに権力を振るえるの? 

 人間の命の尊厳は金の前にどこへ行ったの?


 ムーアは「国民皆保険」を導入しているカナダ、イギリス、フランス、そしてキューバの事例を挙げて、医療費が無料であることを強調していますが、ここは悪い点はわざと無視してばら色に描いているなーという印象を受けました。

 映画ではイギリスの医療体制は欠点などないみたいに描かれてましたが、イギリス人と結婚したわが友人はドイツに住んでいて、それは彼女の旦那のイギリス人が、イギリスの医療はひどくて、手術だって何ヶ月も待たされるし、あんな国には絶対帰らん!と言ったからだし(旦那さんは科学者)、フランスだって、世界一のあの制度を維持するために、税金が猛烈に高いわけでしょう(もっとも、あれだけ手厚ければ税金を払った意味がある)。

 えーと、違うことを書きたかったのに、寄り道がこんなに長くなってしまいました。
 
 つづく!

 はるる