SICKO(2)

 私がこの映画で一番感銘を受けたのは、映画の半頃にイギリスの労働党のもと議員だったトニー・ベンに対するインタビューの内容でした。

 ベン議員は語る。

 

 資本家が言う“選択肢を与える”という考え方は、選択の自由があればこそ。借金苦に選択の自由などない。 

 こ、これは!

 「もやい」の湯浅誠さんが『反貧困』で展開していた主張とかぶる発言ではないですか!!


 

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)

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 さらにベンもと議員は語る。

 

 借金苦のものは希望を失い投票もしない。体制側は“投票を”と言うが、もし英国や米国の貧者が本気になって自分の代弁者に投票したら、真の民主主義革命が起こる。

 それは困るから、体制側は希望を奪う。

 国家の支配には二つの方法がある。

 恐怖を与えることと士気を挫くこと。

 教育と健康と自信を持つ国民は扱いにくい。

 今の日本で起こっているのは、希望が奪われていくことであり、恐怖が膨れ上がっていくことだと強く思いました。

 希望がなくなって、不安と恐怖ばかりが大きくなって、行き着く先はどこ?

 
 最後のキューバで、9・11の際にボランティアで救助活動に尽力したために、健康を著しく損なった救命士や消防士たち、あるいはお金がないためにろくな医療を受けられないアメリカ人たちが治療を受ける場面は、心を打たれる。

 アメリカでは120ドルもする薬がキューバで5セントといわれて、その不条理に涙をとめられなくなる女性のもと救命士。

 夫は何度も心臓発作を起こし、自身は癌を患ったため、自己負担額を払いきれずに破産して家を売りに出し、子供の家に身を寄せて肩身の狭い思いに苦しんできた、かつて新聞のエディターをしていた女性は、キューバでただで治療すると言われて、泣き出してしまう。

 HMOのもとでは、医者は患者を治療しなければしないほど、儲かる。

 イギリスやカナダや他国では、医者は患者を治せば治すほど儲かる。

 この荒涼とした逆転の構図は、心を底まで冷えさせます。


 

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 この映画は、ムーアの映画の中では最高傑作ではないでしょうか。『華氏911』などはプロパガンダ色が強くていま一つでしたが、この映画は(アメリカ以外の医療制度の描き方に問題があるとはいえ)よく出来ています。

 ムーアのアメリカの現行の医療制度への激しい怒りが伝わってくる。


 ところで、これを観ていてとっても気になったのが、日本の医療制度。
 日本は、無料じゃないですよね。
 私は何ヶ月も来る日も来る日も耳鼻科に通い続けているので、身にしみてます。私は毎回600円ずつ払っています。これが一ヶ月となると結構な額になるので、早く治りたいのに、そうは問屋がおろさない。(;_:)

 なぜ日本は無料でないのか?

 というわけで、俄然、日本の医療制度に関心を持った私であります。

 昨今の日本はアメリカを笑ってはいられないですしね。産科があんなに悲惨なことでは、少子化が止まるわけもないし、日本の未来はどうなるのか。 

 
 なお、夫は心臓発作、妻は癌で破産の夫婦が身を寄せるコロラド州の娘の夫は、仕事のためにイラクへ出稼ぎに行くという、強烈な現実が垣間見られます。

 ムーアの映画を見てると、『ルポ 貧困大国アメリカ』の内容がひしひしと思い出されます。
 それと、映画『アメリカばんざい』の内容も。

 貧乏人がいないと戦争はできない、貧乏人を生産し続けよという冷徹なアメリカの現実。

 貧困を食い物にして一部の人々が肥え太っている不気味さ。

 

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

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 はるる