SICKOからスピンオフ

 『SICKO』を観た感想につけたし。

 この映画を観ていて、気になったこと。
 
 それは、フランスの(特にパリ)郊外(banlieu)に住むマグレブ系の若者は、フランスの医療制度の恩恵をちゃんと受けているのかな?ということでした。

 堀江敏幸さんの『子午線を求めて』の第三部が「郊外」の話で、ここを読んでいるとどうしても、数年前の大暴動を思い起こさないではいられないため、このことが気になりました。(第三部の内容は、堀江さんの『郊外へ』と重なります。)

 ムーアの映画に郊外に住む移民2世の若者が出てきたら、彼(もしくは彼女)はどう語っただろうか。

 

子午線を求めて (講談社文庫)

子午線を求めて (講談社文庫)

 

郊外へ (白水Uブックス―エッセイの小径)

郊外へ (白水Uブックス―エッセイの小径)


 それと、カナダの医療制度の父だという、トミー・ダグラス。
 この人のことは、全然知らなかったので興味を持ちました。

 カナダ史上、最も偉大な人物に選ばれたというダグラス氏。

 http://www.cbc.ca/greatestの説明によると、彼は10歳の時に、骨の感染症で膝が悪くなって足を切断する寸前まで行き、あわやのところである医者が無料で手術をすると言って、彼の足と命を救ったという経験があり、それが後の無料で治療を受けられる医療制度を導入するという彼の思想のもとになったとか。

 トミー・ダグラスは社会主義者でしたが、それで保守党支持者だろうが何だろうが、カナダ人みんなが恩恵を受けるなら、いいではないですか!

 ヒラリー・クリントンがダグラス氏のようにアメリカ史上に名を残せなかったのは残念なことです。映画によれば、ヒラリーは保険業界の側に寝返ってしまったようだし。

 

 映画という自分が使えるツールを駆使して、問題を提起して闘うマイケル・ムーアを観ていたら、別の闘うコメディアンを思い出しました。

 その人の名は、スティーブン・コルベア(Stephen Corbert)。

 二年前、ホワイトハウスの晩餐会に招待され、ブッシュ大統領の前で強烈なブッシュ攻撃を笑いの形でやってのけた人。(ついでに御用マスコミと化したメディア批判もして、そのため彼の強烈スピーチはマスコミから黙殺された由。)


なんと!日本語字幕つきの06年のスピーチ映像がありました。

 

 

 
 笑いに包んでいますが、ものすごい皮肉、嫌味、批判のオンパレードで、これをよく当人の前でやったなあと驚きました。(これをやられたブッシュは心に傷を負ったのではないかと心が痛みましたが。) 

 町山智幸さんが、ブッシュを誉め殺しする芸と書いておられましたが、まさに、それ。

 詳しくは http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20060429  をご参照下さい。

I stand by this man. I stand by this man because he stands for things. Not only for things, he stands on things. Things like aircraft carriers and rubble and recently flooded city squares. And that sends a strong message, that no matter what happens to America, she will always rebound—with the most powerfully staged photo ops in the world.
(英語版ウィキペディアのスティーヴン・コルベアからの引用)

 私はこの大統領を支持します。なぜなら彼は何かのために戦うからです。それだけでなく何かの上に立ちもします。たとえばペルシャ湾の空母とか、911テロの瓦礫とか、最近はハリケーンにやられた街の廃墟に立ちました。彼の姿は、アメリカは何かされれば必ず反撃する、という意志を表明しています。世界で最も強力なヤラセ写真によってね。 
(町山智幸氏の上記引用のブログからコピーした訳です。)

 個人的には、このstand for と stand on の皮肉が好きだな。

 白けた会場という敵陣の中、笑いで闘ったスティーブン・コルベアのど根性に脱帽し、敬意を表したい。

 ヘレン・トーマスという、いつも核心をつく質問をするジャーナリストを、ブッシュ政権ホワイトハウス立ち入り禁止にしてしまったわけですが、コルベアさんは、この偉大なるヘレン・トーマスにオマージュを捧げているわけで、これも凄いことだなあと感心した次第です。

 こういうコメディアン、日本にはいませんね。なんだかんだ言っても、アメリカの偉大さはこういう人物を出すところにあるような気がします。

 『リア王』で一番真実を語るのは道化ですが、晩餐会のコルベアはまさに道化の本質を見せたと思います。


 ところで、ヘレン・トーマスについてのドキュメンタリーを、ボビー・ケネディの娘が今年作ったんですよ。(って、それだけなんですけど。)

 題名は、THANK YOU, MR.PRESIDENT:Helen Thomas at the White House。
 Directed by Rory Kennedy(この人が、ボビーの末娘。父親が死んだ後で生まれた人。)

そのドキュメンタリーの予告編はこちら。

 


 ヘレン・トーマスの最新著作はこちら。読んでないけど。

Watchdogs of Democracy?: The Waning Washington Press Corps and How It Has Failed the Public

Watchdogs of Democracy?: The Waning Washington Press Corps and How It Has Failed the Public


 というわけで、『シッコ』を観て連想されたことを書きました。

 連休も本日でおしまい。明日から仕事だ。気を引き締めないと。

 はるる