アブラハム的決定
昨日、高橋哲哉氏の、デリダを使って正義や他者について語る話を聴きました。
実は講演タイトルから私が予想していた内容と異なり、高橋氏の話はばりばり現代哲学の話だったので、哲学音痴の私にどこまで正しく理解できたか不安ですが、聴いて心に響いた点を以下に羅列します。
「他者」とは不可能なもので、他者の肯定とは、不可能なものの経験。
不可能なものとは無条件なもの。贈与も歓待も赦しも正義も無条件なゆえに、真にやろうとすれば、それは不可能である。
私たちがやっているつもりのそれらは、実は条件付きの贈与である交換であり、条件付きの歓待であり、条件付きの赦しであり、条件付きの正義である法に過ぎない。
決定不可能なものにおける決定こそ、真の決定である。それは、アブラハム的決定(創世記22章のアブラハムが一人息子のイサクをいけにえとして神に捧げるよう求められて、捧げようとする話)であり、他者の決定である。
その他者は「私の内で私のことを決定する絶対者としての他者」(l'autre comme l'absolu qui décide de moi en moi)であり、この「内なる他者」が決定する決定こそが真の私の決定である。
My own decision, my own resposible decission, must in myself be the other's.
C'est la responsablilité de l'autre, mais de l'autre en moi. De l'autre comme moi.
素朴なる哲学音痴の私は、当初アブラハム的決定の話を、それは神の決定に従うということでしょう、修道者としての召命とかも自分が決定するのではなく、まさに「私の内なる絶対者としての他者なる神」の決定だし〜などと単純に考えていたのですが、議論が進むと、そんな話では全然ありませんでした。発言しなくてよかった〜(~_~;)。
アブラハム的決定というのは、要するに「内なる他者」(神ではない)の決定が社会が考える倫理や法(条件付き法)を超えたり破ったりする可能性があり、それをどう考えるかということでした。
デリダは無神論者として、「内なる他者」を神とは規定せず、単独者である各人が「全き他者」(tout autre)、自己に回収できない超越性を持った他者であると規定している…みたいです。(無知丸出し…。お恥ずかしい。)
ここらで、私は考え込んでしまいました。他人が自分から見ればうかがい知れないものを抱えた存在であるという点においては、超越性を持っていると主張するのも理解できるのですが、「私の内で私のことを決定する絶対者」として同じ人間である「他者」という水平レベルで論じていってよいのかなあ、神様抜きでこういう議論をするということが可能なのかなと思ってしまって。
しかし、その後、議論はさらにアブラハムの行為をめぐって、倫理と信仰を分けられるか、キルケゴールは分けて倫理を超える信仰を主張し、レヴィナスはアブラハムは結局イサクを殺さなかったではないかと、行為を決断したことが重要であって行為そのものに重点を置かないとしたが、デリダはどちらも退けたのだといった話になりました。
ある宗教の神への責任を果たすために、倫理を超える行為は容認され得ないというのが、デリダの立場らしいですが、おお、ここら辺は、まさに現代の問題でありますね。
デリダの考えは、ボンヘッファーと重なる部分があると高橋先生は指摘されて、ボンヘッファーのキリスト者としての「責任ある生活」についての考察を紹介されていたので、ボンヘッファーを読んでみようと思います。
私はあくまでもキリスト者という枠組みで問題を考えていきたい。
言及されたり、引用されたりしていたデリダの著作。
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ほかに、英語とフランス語のテキストからのコピーもありました。
おまけにラテン語、ギリシア語の『新約聖書』の抜粋まで配られて、内心焦りました。己の不勉強を猛反省した一日。とかいいつつ、こうやって遊んでいる。反省は猿でもできるとは、本当のことなり。
私がデリダの本で持っているのは
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の二冊だけです。
そのうち、多少なりとも読んだのは後者だけという体たらく。
前者は何度かトライしようとしたのですが、本を開くと読む気が失せるのであった。
いつかデリダの入門書でもひもといてみますか。
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ホントに90分で分かるのかしら。そもそも90分で読めるのか?
はるる