読んだ本メモ

 仕事に追われながら、新幹線に乗って上京する合間に読んだ本。

 『言葉と戦車を見すえて』(加藤周一)。
 やはり、「言葉と戦車」は凄い。
 本当に賢い人が強靭で明晰な思考を、的確な文章力で一点のくもりなく書くとこういう文章になるのかと思いました。

   

言葉と戦車を見すえて (ちくま学芸文庫)

言葉と戦車を見すえて (ちくま学芸文庫)


 『若い読者のための短編小説案内』(村上春樹)。
 小説を書く人が他人の小説を読むと、こう読めるのかと感心。村上春樹の小説は苦手ですが、彼のエッセイやノンフィクションの類は好きです。

 

 僕は短編小説を書くときには、なるべくまとめて作品を書くようにしています、それもたくさん書けば書くほどいい。俳句や短歌の世界もそうですが、ある期間に数をまとめて作っていけば、多くの場合その中に必ずひとつかふたつは手応えのある作品が生まれます。というか、ある程度数を作らなければすんなりと出てこない何かがそこにはあるわけです。(16頁)

若い読者のための短編小説案内 (文春文庫)

若い読者のための短編小説案内 (文春文庫)

 


 『プールサイド小景静物』(庄野潤三)。
 後年の庄野ワールドと全く異なる世界が描かれていて、驚きました。

 どれも、不穏な空気が漂っています。
 ここに納められた短編の中では、やはり「静物」は特にすばらしくて、衝撃を受けました。

 一字たりとも無駄のない、削ぎ落とされて緊迫した文体。隙のない構成。静かな不穏さ。

 凄いものを読んだという感想が、読み終わったとたんに浮かびました。

 これに比べると、晩年の老夫婦の生活を描くシリーズの特に後半の何冊かは、申し訳ないですが、かなり水準が落ちますね。

 「静物」が超一流とすれば、『けい子ちゃんのゆかた』などは二流と言わざるをえないでしょう。文章がゆるんでいる。(と、エラソーなことを言ってしまう。)

 

プールサイド小景・静物 (新潮文庫)

プールサイド小景・静物 (新潮文庫)


 村上春樹による庄野潤三評。
 

 庄野潤三という人は、最初からきちんと定まった自分のスタイルと、自分の語彙を身につけて出てきた作家であると思います。とくに文章解像力に優れている。「都会的」というか、変に斜に構えて文章をこねくりまわすところがない。そういうひねりのないストレートさが、ときとして読者の首を「あれれ」とひねらせる危うさを秘めているのはたしかなのですが、それをはるかに超える美質がそこにはあります。これはあるいは文徳と表現してもいいかもしれない。(128頁)


 確かに「文徳」というのは、庄野さんにふさわしい言葉に思われます。

 何にせよ、不穏から父性に向かった庄野ワールドをもう少し探求してみようと思っています。

 また月末に福岡に行く時には、『ガンビア滞在記』を持っていくと決めています。

 
 

ガンビア滞在記 (大人の本棚)

ガンビア滞在記 (大人の本棚)

はるる