歌舞伎見物

 行ってきました、襲名披露。いただいたチケットは「夜の部」だったので、口上は見られませんでしたが(三月歌舞伎では、口上は「昼の部」)、なかなか堪能させていただきました。
 個人的に一番嬉しかったのは、三島由紀夫が書いた歌舞伎『鰯売恋曳網』(売と恋は旧漢字です)を見られたことです。それも、勘三郎玉三郎のコンビで。
 私は三島由紀夫の文体が苦手で(彼の思想信条も苦手だし)、小説もろくに読んでおらず、三島の歌舞伎ねえ、とちょっぴり危惧する気持ちもなきにしもあらずだったのですが、いや失礼いたしました。こんなおっとりした、おおどかで満開の菜の花畑が午後二時の太陽に照らされているような明るさに満ちた、おとぎ話のような台本を書ける人だったんですねえ。

 この話自体が、コミカルで洒落っ気たっぷりの明るい話ですし、勘三郎自体が、ひょうきんで滑稽味が出せる芸風の持ち主(だから、好きなんですけど)なので、この演目には本当に最初から最後まで大笑いしつつ、楽しませてもらいました。やはり、上手い役者ですわ、勘三郎は。
 しかし、舌を巻いたのは、玉三郎の持っているオーラで、これには感服つかまつりました。すっと出てきただけで、あるいは、くるっと客席に背を向けるだけで、あれほど、舞台の空気が変わり、周りの役者が色あせて見えるほどのパワーを感じさせるとは、本当に只者ではない!ますます芸のすごさに磨きがかかったなあと、ひたすらうっとり見惚れてました。しかも、上手いコメディアンヌ(と呼ぶべきか?女形だから)ぶり!当代一流の役者さんだとつくづく脱帽いたしました。今更、何を言っているかと言われそうですけど。

 で、うっとりした勢いで買ってしまったのが、『かぶき手帖 2005年度版』。
 今年は、歌舞伎にはまり直してしまいそうな予感です。お金がないから、花道の見えない三階B席しか行けないけど。昨夜は二階席で花道のちょうど上だったので、よーく花道が見えて本当に嬉しかったです。昨日の演目の一つが舞踊『保名』で、仁左衛門が一人で踊ったのですが、この舞踊、最初花道でえんえんと何分間も踊り続けるんですよね。三階席だと下の階からのやんや、やんやの拍手喝さいを聞きながら、悔し涙にくれてないといけなかったところ。チケットを下さった方、このご恩は忘れません、合掌。

 五月大歌舞伎「夜の部」が、菊五郎海老蔵の『義経千本桜』に、玉三郎の『鷺娘』、そして勘三郎海老蔵福助染五郎橋之助などを揃えた『野田版研辰の討たれ』なので、「こ、これは見なければ!」と、現在私は、一人で盛り上がっています。

 というところで、歌舞伎のご報告でした。(誰に報告してるんや。)

 はるる