夏休みの読書

 休み気分の中、読んだ本。

 『音楽』(武満徹小澤征爾
 『聞き書き 着物と日本人』(原田紀子)
 『きもの365日』(群ようこ
 『敗戦日記』(高見順
 『海野十三敗戦日記』(海野十三
 『持たない生活』(向山昌子)
 『須賀敦子のローマ』(大竹照子)
 『ホラー小説講義』(荒俣宏
 『幸田文のマッチ箱』(村松友視
 『俳人漱石』(坪内稔典

 『音楽』は武満・小澤両氏による対談。ヨーロッパ音楽は平均律で普及しやすい、西欧近代の文化文明のよさはどこにでも持っていけることだといったことが語られる一方(だからといってヨーロッパ音楽万歳というわけでもない)、日本の音楽状況がいかにだめかが語られておりました。日本の音楽界に欠けているのは音楽をやる喜びだそうです。これは、音楽に限らない気がするなあ。かつて辻邦生が、日本の風土には「幸福」の観念(無償の喜びの感覚)が欠けていると『手紙、栞を添えて』に書いてましたが…。

音楽  新潮文庫

音楽 新潮文庫

 『着物と日本人』はかつて日本人は着物を着て生きていたけど、普段どうしていたのだろうという疑問から図書館で手に取ったもの。今、着物ときいてすぐに連想するようなものを野良仕事はじめ激しい労働をする日本人たちが着ていたのではないのだということが、改めてよく分かり、とても興味深い本でした。日常の中の着物はイコール裾の長い着物ではなかったわけで、それはもんぺとか作務衣とかを思い浮かべれば納得。こういう長い着物ではないものが生き残り、発達していれば、現代日本の衣料事情はかなり違ったものになっていたのではないかと思いました。(この辺りのことは小泉和子さんの『洋裁の時代』を読むと分かるんでしょうね。この本、冬休みにでも読んでみようっと。)
 都市の労働しなくてよい奥様の着物=長着だけを大事にしすぎたのが着物衰退の大きな原因の一つでは?今日の惨状には呉服業界の責任もあると思うなあ。
 着物のメンテナンスに携わっている人や、帯を縫う人、リサイクル着物を扱っている人の話なども興味深かった!普段に着物を着ている大学教授(男性)の話もいい感じ。

聞き書き 着物と日本人―つくる技、着る技 (平凡社新書)

聞き書き 着物と日本人―つくる技、着る技 (平凡社新書)

 『きもの365日』は文字通り365日着物を着たのだと思って読み始めたら、あら、結構洋服を着ている日があったのね。それでも、通常の人よりずっと多くの日数着物を着て過ごし、徐々に着物で日常を生きることに慣れていく様子は面白かったです。それにしても、着物を着るということは、こんなにお針仕事をしなければならないとは。私には無理だ〜。

 

きもの365日 (集英社文庫)

きもの365日 (集英社文庫)

 『敗戦日記』。日本人はあの戦争の下でどう生きていたのか、何を考えていたのかなどを知りたくて読んでみました。東京大空襲や広島の原爆の噂、8月15日など、特に注意して読みました。高見順氏は、割と冷静に突き放して物事を見ている方だという印象。細かく当時の世相を記録している点が素晴らしい。8月15日、高見さんの奥様がラジオ放送の前にポツンと「ここで天皇陛下が、朕地とともに死んでくれとおっしゃったら、みんな死ぬわね」と言ったというのに、なんともいえない気分になりました。

 他の人も知りたいと思って手にしたのが『海野十三敗戦日記』でしたが、こっちは敗戦前後、一家心中することを真剣に考え青酸カリを手に入れようとした人なので、全然雰囲気が違いました。なんか、愛国的というのか、ファナテッィクというのか。うーん。同じ戦争のもと、やはり人それぞれ考えること、感じることは本当に違うのだと思いましたね。
 にもかかわらず二人とも天皇に対する敬慕の念が強く、天皇は明らかに別格の存在なのだということがよく分かったことも興味深かったです。

 

敗戦日記 (中公文庫BIBLIO)

敗戦日記 (中公文庫BIBLIO)

 

海野十三敗戦日記 (中公文庫BIBLIO)

海野十三敗戦日記 (中公文庫BIBLIO)

 永井荷風が戦争に対して徹底的な故意の無関心で対抗したのに比べると、両氏は戦争と日本の行く末について煩悶している観あり。
 
 『持たない生活』。さらっと読める。私以外にもこの世に間取りを見るのが大好きという人間はいたという発見は嬉しかった。

 

持たない生活

持たない生活

 『須賀敦子のローマ』。『須賀敦子の○○』シリーズをすべて読んだ気になっていたら、これがまだ残っていました。須賀敦子カトリック教会、須賀さんの信仰について思い巡らす。浜尾大司教と親交があったことが書かれており、浜尾大司教が外国人宣教師が日本人の信仰は浅い、浅いと言うのが日本では理解出来なかったが、ヨーロッパに来て理解できたという趣旨のことを話しておられたのが、印象に強く残りました。

 

須賀敦子のローマ

須賀敦子のローマ

 『ホラー小説講義』は、ホラー小説が誕生した背景、つまり、19世紀になってどのように社会的心性が変化したのかといったことが書かれているかと思い、読んでみたもの。ちょっとこちらの期待とは違う路線でした。それなりに面白かったけど。この表紙がちょっと…。借りる時ちょっぴり恥ずかしかったデス。

 

ホラー小説講義

ホラー小説講義

 『幸田文〜』は読んでよかった!と思った一冊でした。渾身をキーワードに幸田文を読み解いているところなどもよかったですし、村松さんが編集者時代にしていた幸田文との交流を描いているエピソード(千代紙を貼ったマッチ箱の話とか)もよかった。要するにこういうのに私は弱い。

幸田文のマッチ箱

幸田文のマッチ箱

 『俳人漱石』は、漱石の俳句を正岡子規夏目漱石、そして坪内稔典さんの鼎談という形で読んでいくもので、趣向が面白かったです。俳句とはこういう風に読むのかという勉強にもなったし。

 「卯の花や盆に奉捨をのせて出る」
 「菜の花の遥かに黄なり筑後川
 「瑠璃色の空を控えて梅の花
 
 漱石は俳句も高レベルですし、漢詩もすごいし、多才なお人でしたな。松山にはもったいなかったですね、やはり。

 

俳人漱石 (岩波新書)

俳人漱石 (岩波新書)

 読んでいる途中なのは、『定刻発車』。日本社会のある側面がよく分かって興味津々です。鉄道用語でとまどうこともあるけども。

 

定刻発車―日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか? (新潮文庫)

定刻発車―日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか? (新潮文庫)

 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 はるる