たまには詩を

 私はめったに詩を読まない無粋な人間ですが、先日、私の深いところでとても共鳴して、このところ毎日くちずさんでいる詩に出会いました。まど・みちおさんの「うさぎ」という詩です。

 うさぎに うまれて
 うれしい うさぎ
 はねても
 はねても
 はねても
 はねても
 うさぎで なくなりゃしない


 うさぎに うまれて
 うれしい うさぎ
 とんでも 
 とんでも
 とんでも
 とんでも
 くさはら なくなりゃしない

 なんだか、神様に創造された存在は、Doingより Beingだよ、という感じがしまして、「そうそう、うさぎに生まれて嬉しいよね」と一人うなづく私でありました。

 基本的に詩を読まない私が、たった一冊だけ詩集を持っています。その詩集の題は『空と風と星と詩』。独立運動をしたという理由で逮捕され、服役していた福岡刑務所で、1945年2月に27歳で獄死した韓国人、尹東柱(ユン・ドンヂュ)の詩集です。

空と風と星と詩―尹東柱全詩集

空と風と星と詩―尹東柱全詩集

 尹東柱は当然のことながら韓国語で全ての詩を書いていますが、それを伊吹郷さんという方が見事な日本語に移されています。さすがの唐変木の私も、彼が遺したいくつもの詩の内容と言葉の美しさに打たれました。清らかというのか、シモーヌ・ヴェイユにつながる美しさがある気がします。
 私は韓国語はそんなに出来ませんが、それでも韓国語の詩集も買って、私の好きな詩から順にぽつぽつ読みました。韓国語もとても美しいと思います(と、エラソーに言ってみたりして)。
 人気の高い「序詩」も素晴らしいですし、「たやすく書かれた詩」「八福」「十字架」「星をかぞえる夜」「新しい道」「看板のない街」「道」「懺悔録」なども好きな詩です。キリスト教的な題名の詩が散見されるのは、尹東柱プロテスタントの信者だったからでしょう。

 一つだけ、ご紹介します。これは、「新しい道」という詩です。

 川を渡って森へ
 峠を越えて村に


 昨日もゆき 今日もゆく
 わたしの道 新しい道


 たんぽぽが咲き かささぎが翔び
 娘が通り 風がそよぎ


 わたしの道は つねに新しい道
 今日も… 明日も…


 川を渡って森へ
 峠を越えて村に

 
 日本語が強制され、韓国語が禁止されていた時代、尹東柱は韓国語で詩を書きました。生前に詩集『空と星と風と詩』の出版をくわだてたものの、当時禁じられていた言語で書かれた本を出版できるはずもなく、その原稿は密かに友人の手により(文字通り)地下に隠されました。この詩集が出版されたのは、解放後の1948年でした。

 はるる