たまには詩を
私はめったに詩を読まない無粋な人間ですが、先日、私の深いところでとても共鳴して、このところ毎日くちずさんでいる詩に出会いました。まど・みちおさんの「うさぎ」という詩です。
うさぎに うまれて
うれしい うさぎ
はねても
はねても
はねても
はねても
うさぎで なくなりゃしない
うさぎに うまれて
うれしい うさぎ
とんでも
とんでも
とんでも
とんでも
くさはら なくなりゃしない
なんだか、神様に創造された存在は、Doingより Beingだよ、という感じがしまして、「そうそう、うさぎに生まれて嬉しいよね」と一人うなづく私でありました。
基本的に詩を読まない私が、たった一冊だけ詩集を持っています。その詩集の題は『空と風と星と詩』。独立運動をしたという理由で逮捕され、服役していた福岡刑務所で、1945年2月に27歳で獄死した韓国人、尹東柱(ユン・ドンヂュ)の詩集です。
- 作者: 尹東柱,尹一柱,伊吹郷
- 出版社/メーカー: 影書房
- 発売日: 1984/11/30
- メディア: 単行本
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尹東柱は当然のことながら韓国語で全ての詩を書いていますが、それを伊吹郷さんという方が見事な日本語に移されています。さすがの唐変木の私も、彼が遺したいくつもの詩の内容と言葉の美しさに打たれました。清らかというのか、シモーヌ・ヴェイユにつながる美しさがある気がします。
私は韓国語はそんなに出来ませんが、それでも韓国語の詩集も買って、私の好きな詩から順にぽつぽつ読みました。韓国語もとても美しいと思います(と、エラソーに言ってみたりして)。
人気の高い「序詩」も素晴らしいですし、「たやすく書かれた詩」「八福」「十字架」「星をかぞえる夜」「新しい道」「看板のない街」「道」「懺悔録」なども好きな詩です。キリスト教的な題名の詩が散見されるのは、尹東柱がプロテスタントの信者だったからでしょう。
一つだけ、ご紹介します。これは、「新しい道」という詩です。
川を渡って森へ
峠を越えて村に
昨日もゆき 今日もゆく
わたしの道 新しい道
たんぽぽが咲き かささぎが翔び
娘が通り 風がそよぎ
わたしの道は つねに新しい道
今日も… 明日も…
川を渡って森へ
峠を越えて村に
日本語が強制され、韓国語が禁止されていた時代、尹東柱は韓国語で詩を書きました。生前に詩集『空と星と風と詩』の出版をくわだてたものの、当時禁じられていた言語で書かれた本を出版できるはずもなく、その原稿は密かに友人の手により(文字通り)地下に隠されました。この詩集が出版されたのは、解放後の1948年でした。
はるる