crazy as usual

 私の生活もタイトル通りかも知れませんが、そうではなくて映画の話。

 この忙しいのにいいのか、私?と思いつつも、今日を逃したらもう観る機会はないかもしれないという理由で、無理やり『アメリカばんざい crazy as usual』を名古屋シネマテークで観てきました。

 http://www.america-banzai.com/


 堤未果さんの『ルポ 貧困大国アメリカ』の映像版という感じのする日本人製作のドキュメンタリー映画です。

 

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

 大傑作とは言えないまでも、佳作と申せましょう。

 何も知らずに戦場に送り込まれ、PTSDに苦しみ、ホームレスになり、麻薬に走るアメリカの若者たち。
 特に、急速にホームレスになっていく20代のイラク帰還兵をめぐる問題に焦点をあてている映画でした。

 今、日米の軍事的一体化が進められ、日本軍はアメリカ軍のいわば下部組織として、下手するとアメリカの次の戦争に協力する破目になるかもしれない状況にあって、あの若者たちの姿は、他人事とは思えませんでした。

 この映画でインタビュアーをされていたジャーナリストの景山あさ子さんは、こうした取材に基づいた本を執筆中の由。
 タイトルは『アメリカ―戦争する国の人びと』(仮題)だそうです。


 この映画の監督である藤本幸久氏へのインタビューはこちら。

 マガジン9〜この人に聞きたい『藤本幸久さんに聞いた』〜


個人的には、せっかく海兵隊ブートキャンプ(初年兵教育キャンプ)への取材が許されて撮影しているわけですから、もう少しブートキャンプに関して観たかったです。

 必ず真夜中に新兵をブートキャンプに連れてきて、到着するまで新兵たちが目を開けることを許さず(つまり、彼らは自分がどこに行くのか、どこに着いたのか分からない心理状態)、到着後は48時間、眠ることを禁じる。

 こ、これは破壊的カルトなどが使う、マインドコントロールの手法そのものではないですか!

 新兵のキャンプ到着は必ず深夜にするように設定されていて、それから二日間は寝させないというのは、軍隊は精神改造を容易にすることを狙っているわけで、組織に忠実で思考停止する人間を作ろうとすると、結局同じ心理学的テクニックが使用されるわけなんですねえ。

 真夜中にキャンプに着いてから、壁に貼ってある紙に書かれていること5行以外、いっさい言ってはならないという命令と監視のもと、いっせいに新兵たちが家に電話をかけるシーンは圧巻。

 夜中に、我が子からこんな電話をいきなり受けた親のショックはどんなだったかと思いました。


 海兵隊の合言葉。

 One Shot, One Kill
(一発必中、一発必殺)

 海兵隊での訓話

 相手が10人でもひるんではいけない。6人を殺し、残り4人も無傷で帰すな。ナイフで戦えば刺される、銃撃戦なら撃たれる、素手なら殴られるだろう。自分がどんな傷を負っても、相手を生きて帰すな。無傷で帰すな。これが正しい戦闘の心構えだ。


 戦場で6人を殺し4人に傷を追わせれば英雄になり、普通の日常生活で7人殺せば、とんでもない人殺し。(でも、その「英雄」は帰還後にPTSDに苦しんで、麻薬に溺れホームレスになっていたりする。)

 
 陳腐な問いですけど、本当に戦争って何?と考えてしまった。

 戦争とか、経済格差とかの奥にある、人間が抱え持つ「業」とか「罪」と呼ばれているものをしっかり見据えて思考する必要性を痛感します。やはりここまで来ると、根っこまで行かないとダメというか。


 ところで、映画館で売っていた『アメリカばんざい crazy as usual 取材レポート』というパンフレットを購入して読んで見ましたが(そんな時間あったら仕事しろよと、我ながら思うけども)、映画は取材の一部しか見せていないのだなということがよく分かりました。


 いきなり、同じ部隊の兵士からセクハラを、上官からはレイプをされ続けていたという女性兵士の話が出てきて、ギョッとする。

 いったんイラクからアメリカに帰還したものの、再度イラクへの派遣命令を受けたこの女性は、またあの経験をするのは耐えられないとして派遣を拒否、「逃亡兵」として軍事裁判にかけられた上、同じ部隊の人間をレイプ犯として告発した「裏切り者」として除隊を認められず、階級を剥奪された状態の兵士として今も軍に勤務させられている。

 心が冷えていくような話。


「米軍の女性兵士の85%がセクハラを受け、45%が性的暴行を受けている。しかし犯罪者が裁かれるのは2%に過ぎない。」


 映画では出てこなかったのですが、パンフレットと年末に出版される本では取り上げられている派兵を拒否して裁判で闘っている人たちに、私は関心を持ちました。

 イラク派遣を最初に拒否した将校であるアーレン・ワタダ中尉については、以前に新聞記事を読んだ記憶がありましたが。

 

 これが、ワタダ中尉。
 
 詳しくは、Courage to Resist - Supporting Military War Resisters Who Refuse to Fight へどうぞ。

 こんな風に自分の意志で派遣を拒否し、それを支える人々がいるという辺りが、アメリカの民主主義の底力を感じさせる。

 日本では難しいかもしれない。空気読めとか言われて、ものすごいバッシングが起こりかねない。


 とりあえず、今は仕事に戻ります。こんなことで間に合うのかね、私。

 はるる