新春

 遅ればせながら、新年おめでとうございます。

 このブログは2004年の12月12日に開始しているので、気がつけば一年以上たっています。一年間とりあえずインターネット世界の体験学習としてやってみようと始めたこのブログ(こういう理由でブログをやる人もあまりいないのでは?)。
 一年経ったし別にやめてもいいんだなあと思いつつ、だんだんネット上のお知り合いなども出来たりしましたし、もうちょっと続けて見ようかなと考えているところです。
 ともかく、本年もどうぞよろしくお願いします。

 年末年始、広島⇒宗像⇒広島⇒松山⇒東京と移動しつつ、『本格小説』上・下と『見ることの塩』を読了しました。
 In Our Own Tonguesも旅に持って出たのですがこれは読みかけです(私の英語力では日本語の本のように速く読めない)。

In Our Own Tongues: Perspectives from Asia on Mission and Inculturation

In Our Own Tongues: Perspectives from Asia on Mission and Inculturation

本格小説(下) (新潮文庫)

本格小説(下) (新潮文庫)

本格小説』は、その筆力に圧倒され、久しぶりに素晴らしい傑作を堪能したという満足感と深い感動を味わうことが出来た小説でした。
 登場人物一人ひとりが見事に立ち上がり、本当に生きていましたが、個人的には三枝三姉妹、特に春絵と夏絵が凄い!と感じました。この二人は近代日本、特に戦後日本の戯画だな、と。旦那の転勤で香港にはアジアなんてと目もくれず行こうとしなかったのに、ニューヨークに転勤となるといそいそとだんなに付いていく春絵は特にね。
 でも、この小説では奥行き深く人物が描かれているので、この春絵もまた、単なる悪役、いやな女などではなく、生き生きと魅力ある三次元の人間として立ち現れ、決して彼女を憎くなったりしないのは、素晴らしいと思いました。

 あと、個人的には「本格小説の始まる前の長い長い話」で『私小説』後の奈苗と美苗の動静を読めたのは嬉しかったですね。あの二人、特に奈苗はどうなったかしらと思っていたので。日本に帰ってきたのか・・・。ちなみに、この『私小説』は私の大好きな小説です。アメリカに行く前に読んで、日本に帰国して読んだら、胸に迫るものがはるかに増していて、その重さに涙したりしましたが。

私小説 from left to right (新潮文庫)

私小説 from left to right (新潮文庫)

 
 小説の本筋とは関係ないですが、上流階級の一員という強烈な自負心を持つ三枝姉妹が、軽井沢の地元民を肥えを運んでいるどん百姓などとと言って一般庶民を嘲笑している裏で、より家柄が上の人々は三枝家のことを聞いたこともない家と見下しており、三枝家を聞いたこともない成り上がりと歯牙にもかけていないその家の人々も、より上の華族からは相手にされず、という入れ子構造のような家柄・血筋の上下優劣関係が鮮やかに描かれているのを読みつつ、そうか、この関係性のトップにいるのが、天皇家なんだと納得しました。
 天皇が聖なるもので、天皇から離れれば離れるほど、穢れになっていくというのが中世の「日本人」の観念だったということを以前読んだことがありましたが、そんなことが思い出されたりしましたね。
 かつて『入江相政日記』第一巻にたくさんの華族・皇族の系図が載っていて、それを丹念に見ていくと、彼らは結婚によって網の目のようにつながっており、天皇家を中心とした一蓮托生の血縁共同体だったのだということがよく分かった経験があります。これが、閨閥かあって感心したもんです。そんなところに「粉屋の娘」が一人入っていったんだから、そりゃ針のムシロだったわなと得心いきました。・・・って何の話だ。

見ることの塩 パレスチナ・セルビア紀行

見ることの塩 パレスチナ・セルビア紀行

 『笹塚日記』を読んでいると、これは今年のベストワンだとか、ベスト3に入るといったせりふが時々出てきて、ふーん、私も結構本を読むけど、そんなことを考えたことあまりないなあと思いましたが、今回、この本を読んで、2005年のベスト3を選べと言われたら、私は迷わず『見ることの塩』をその中に加える!と思いました。素晴らしい本。
 四方田犬彦さんに対する認識を新たにしました。前から、いいなと思ってましたが、いや、恐れ入りました。
 まだ、読み終わって間もなく、圧倒されたままなので、感想などはまた後日ということで(とはいえ予定は未定。書かないかも。)

 あと、正月に『新撰組!! 土方歳三、最期の一日』http://www.shinsengumi-exp.jp/を観て、三谷幸喜恐るべしと思いましたねえ。
 それと、片岡愛之助榎本武揚を演じていて、やっぱり上手いと舌を巻きました。

(『新撰組!!』ガイドブックの表紙の山本土方がNHKのウェブに出ている写真よりいいと思うんですが、どうやって出せばよいのか分からなかったもので^^;、土方歳三ご本人にご登場願いました。)
追記:これが、出せなかったガイドブックの映像です。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4594604242/qid=1136453367/sr=8-1/ref=sr_8_xs_ap_i1_xgl/250-4775642-8352261
・・・私って、ただのミーハーだったのか?(何を今更。)

 脚本もよく出来ていて、『新撰組!』ファンにちゃんとサービスし、かつ総集編ともつなげていて、うーん、さすが三谷幸喜。冒頭の「待たせたな」は嬉しかったねえ。三谷さんが描く山本版土方はそうこなくては!
 最初いやな奴と思わせて、後半一気に印象が好転する大鳥の描き方は、おお、これ歌舞伎だよ、と思ってしまいました。演じる役者さんも上手かったですねえ。(すいません、どなかがされたか、知らなくて。)
 とにかく、再び山本耕史演じる土方が見られて、満足、満足。撃たれて落馬した後、あの立ち回りをしてくれたのは観る側としては嬉しかったです。「新撰組副長、土方歳三」と名乗って死んでいくのが、『燃えよ剣』を踏襲しつつも、そこにいたるまでの背景が全く違ってなかなかよろしいかったなあと思っております。
 あの負け戦をガラリとプラスの内容に変えた脚本、好きだなあ。
 ・・・と言っておいて、なんですが、ただね、榎本さんが北海道の大地に新しい国を造る云々という話をしているドラマの中盤、これは、本州以南の日本人から見た話だなあってとことが引っかかったんですよね。
 牛を何万頭も飼って、チーズを作る夢を榎本が土方に語り、土方も榎本に遺言のように言いますが、これをアイヌから見たらどうなるのかということをドラマが終わった後、感動の余韻の中でふっと思ってからずっと、頭の隅で考えています。榎本武揚大鳥圭介も後で北海道開拓使となりますが、開拓とは何だろう?
 いつか、池澤夏樹の『静かな大地』を読んでみよう。それと、近代のアイヌ史に関する本も。

 というところで、正月気分もこれまで、今から気を引き締めてまいります。では。

 はるる