読んだ本

 台風のおかげで昨日の休日出勤が吹っ飛びました。やれ、ありがたや。
 と思ったのも束の間、その代わり夏休み中に出勤しなくてはならなくなってしまいました・・・(;_:)。ぬか喜びであったか。

 『十字軍の思想』『スピリチュアルにハマる人、ハマらない人』『〈スピリチュアル〉はなぜ流行るのか』を読了。

十字軍の思想 (ちくま新書)

十字軍の思想 (ちくま新書)

 これを読んで、十字軍の思想は必ずしもキリスト教の本質に結びつけられることではないのではないかと思いました。
 あれは、あくまでも西ヨーロッパの歴史状況、特に10世紀末から進行した「封建革命」や「神の平和」運動が深く絡んだ俗権に対する教皇権を上位に置こうとする教会改革の中で生まれてきたもので、必ずしもキリスト教が異教の「汚染」に対する浄化、排斥という思想を本質的に抱え込んでいるわけではない、と。

 同様の思想が単性論派の教会や、イスラーム世界で発展していた東シリア教会(いわゆるネストリウス派と言われるもの)、あるいは東ヨーロッパの正教会には見当たらないように思うので、西ヨーロッパにおける教会の問題ではないかなあと考えた次第。(もっとも、この辺りはもっと調査しないといけません。)

スピリチュアルにハマる人、ハマらない人 (幻冬舎新書)

スピリチュアルにハマる人、ハマらない人 (幻冬舎新書)

 これは、精神科の診察室に来た若い女性から、いきなり「精神科医は黙っていても、本人が分からない前世が分かるんでしょ」と思いがけない要求をされ、目を白黒させた香山リカ氏の体験談から始まる本で、うーん、つかみが上手いですね。
 で、香山さんご自身はこういうものにかなり違和感を持っているという立場に立ってらっしゃるので、当然のことながらスピリチュアルブームのマイナス面がかなり厳しい筆致で書かれています。
 要するに、現今のスピリチュアルなるものは、徹底した「現世」主義で、「あくまでも私」にこだわり、極めて内向き志向で、この私だけが救われればよく、利他主義と相容れないもの、宗教に似ていながら、もっとも宗教から遠いものというのが、香山さんの定義であり、問題意識であるようです。
 
 それにしても、「ミラクルハッピーなみちゃん」(佳川奈未氏)とか全然知らなかったので、勉強になりました。
 それにしても、この人の主張にはぎょっとしましたわ。

 佳川氏が言うには、お金は「魂(ソウル)」や「意思(ウィル)」を持っているものなので、お金を持つということは心が豊かになることであり、収入の増加は「潜在意識の法則や、波動やエネルギーワークの働き」で起こる。収入が多い人というのは、「心の中で豊かさを常に育んでいたからこそ、目に見える現実生活のうえでも、その姿を現したということ」だというのが、“なみちゃん”の主張だ。(52p)

 サタンよ、退け。
 
 という言葉が、ここを読んだとき思わず頭をよぎりました・・・。なみちゃんファンの方、すみません。

 

<スピリチュアル>はなぜ流行るのか (PHP新書)

<スピリチュアル>はなぜ流行るのか (PHP新書)

 スピリチュアル・ブームにかなり厳しい目を向けている香山さんの本に対し、こちらは、もっと肯定的です。
 既成の組織宗教が機能できなくなりつつある現代社会に、新しい共同性を作り上げる可能性があるスピリチュアルのプラス面に光を当てた本といえましょう。

 とはいえ、やはりここでも「私」に集中するスピリチュアルの特徴は指摘されていて、「私という出来事」について何か示唆するかのように受けとめられているスピリチュアルな感覚という記述があります。

 既成宗教は、この動きに対し、何をすべきなのか。何ができるのか。
 これは大変でっせ。

 2000年のキリスト教の歴史の中で、今は最大の転換点、最も根本的な問い直しを突きつけられている時代なのかもしれないなと思っているところ。


 そんな内向きな日本の動きをもう少し広い文脈に位置づけてくれ、かつ読み手の危機感を強めるのが、昨日から読み始めたばかりの『ひきこもりの国』。

 

ひきこもりの国

ひきこもりの国

 
 これを読むきっかけは、働く30代にひろがるうつ病を扱ったNHKスペシャルと、働く20代で増え続ける過労死、過労自殺を扱った特集番組を視聴したことでした。

 なので、『ひきこもりの国』も、序を読んだ後は、いきなり第11章「命綱からの転落」を読みました。これは、働く男性の自殺とうつ病について扱った章で、視聴したTV番組と響きあう内容が書かれていました。

 デュルケムによると、自殺は深刻な、あるいは慢性的な社会秩序の混乱のなかで頻繁に発生し、高い自殺率は、社会機構を蝕む酸のようなものが存在することを示しているという。自殺の引き金を、人それぞれ異なる個人的なものと考えるか、広く社会に根ざしたものと考えるか、いずれのとらえ方をするにせよ、自殺の増加は日本の人々のあいだに深く内的な混乱があることを示唆している。(283p)

 うつ病と自殺の増加は、日本が決定的な転換点に直面している証拠だと山崎はいう。それは、みんなが守られ支えられて生きる「母性社会」から、個人主義と個人の自発性がきわめて重要な意味を持つ「父性社会」への転換である。(291p)

 
 ここに、日本のスピリチュアルが持つ特徴(「そのままのあなたでいい」という慰撫や受容)の背景の一端がうかがえるのかも知れません。
  
 それと、第14章「ひきこもりの国と面倒見のいいおじさんの国」。

 日本人は自分のことを真に理解していないので、当然、他者を理解したいという気持ちも起きない。日本人は、本質的な孤独を認識し、それを解消しようとするどころか、異常なまでの内向性を楽しんでいるように見える。あるいは、すっかり自分の世界にひたっていて、外界と交流し、他者とともに過ごす未来など想像できなくなっているように見える。(中略)
 他者と交わる能力が今後も改善しそうにないことを自覚している日本は、危険と不確実さが増すばかりの世界を目の当たりにして、将来、ひきこもりと同じ対処行動をとるかもしれない。じっさい日本人の一連の行動は、この要塞と化した島国の、とにかく「干渉されたくない」という根深い欲求に起因している可能性がある。(371〜372pp)

 

 日本が自己変革できるかどうかは、アメリカにも影響をあたえるだろう。アメリカの指導者はアメリカのグローバルな影響力と軍事力があれば、日本はいつも必然的にアメリカのいうことを聞くと思いこんでいる。たしかに東京は公式にはイラク戦争を支持してはいるが、今の日本のきわめて内向的な傾向や悲観主義の広がりが、いつか猛烈な国家主義的反応を引き起こし、日米関係に深刻な打撃をあたえかねないということを、アメリカの指導者は認識していない。いつかアメリカは、いい気になって日本をこき使いすぎたことに気付くかもしれない。(395p)

 おお、それは一刻も早く気付いてくれ給え。日本の右傾化の理由の一つに、歪んだ日米関係があるのだから。
 しかし、日本がこのまま衰退の一途をたどるなら、やがてアジアから日本は孤立し(もうしてるけど)、見捨てられ、アジアは中国の影響下に入る(アヘン戦争以前に戻るとも言えますな)わけで、そうすると、日本だけが頼りのアメリカもヤバイわけですね。

 ・・・アメリカが斜陽の大国日本―アジア諸国からあからさまな不信の目で見られている日本―を庇護しつづければ、他の活力あるアジア諸国がすべて中国の勢力下に入る可能性が高いことを示唆している。つまり、アメリカがやってくる何百年も前の状態に戻ってしまうのだ。そのとき、アジアの主要な同盟国が衰えゆく日本だけということになると、アメリカはひじょうに不安な―そして困難な―状況に陥るだろう。蚊帳の外から、なかを覗きこむような状態になるのだ。(398〜399pp)

 あー、日本はどーなるのだ。
 私の前世はとか言っている場合でしょうか。
 嫌韓なんて言っている場合でしょうか。
 日本の未来はこのまま手をこまねいていると、恐ろしく暗い。

 そういう思いが不吉な雨雲のように広がっていく読書体験です。読み応え十分の良書ですが、読んでていろんなことを考えてしまうので、ちょっと疲れます。

 あー。長くなってしまいました。

 本日はこれにて。

 はるる