階級社会?

 その後、『ルポ 最底辺』『新しい階級社会 新しい階級闘争』を読みました。

 ホームレスの人に対して偏見を抱いている人には、ぜひ読んでいただきたい一冊が、『ルポ 最底辺』。
 せめて2章の「野宿者はどのように生活しているのか」だけでも。
 

ルポ 最底辺―不安定就労と野宿 (ちくま新書)

ルポ 最底辺―不安定就労と野宿 (ちくま新書)

 かつて、私はちょっとだけ釜ヶ崎と山谷に関わっていたことがあるので、この本を読みながら自分の体験やその頃見聞きしたことをいろいろ思い出しました(監視カメラのこととか、救急車を呼んでも救急隊員が野宿者をまともに扱わないこととか、瀕死の野宿者の姿とか)。

 自らも日雇いをなさりつつ、野宿者問題を考えておられる生田さんが書かれることは、実体験に裏付けられているので、どすんと重い。

 浮ついたところは一つもなく、どっしりと地に足がついた語り。

 生田さんは『「野宿者襲撃」論』を書かれた方ですが、この新書のほうにも、この問題を扱った章があり、野宿者襲撃と「いじめ」との間の強い共通性について触れられています。

(前略)「集団で凶悪事件を起こした少年」(中略)の多くには共通した傾向が見られた。ひとつは、「家庭」「学校」「友人関係」の中で「自分に自信が全く持て」ないという傾向である。そのため、「親から見捨てられたり、友人から仲間はずれにされてしまうのではないかなどと思って」「過度に仲間に同調」する。その上で、「優位に立って他人に攻撃を加えることで、低下していた自尊感情が高まるように思えるようになって、次第に暴力に親しんでいった」。少年事件のこうした背景は、おそらく「いじめ」のそれと多くの点で共通している。
 「いじめ」の問題は、若者による野宿者襲撃の際にしばしば言及される。「集団の力による個人=弱者への暴行」という点でそれは共通するからだ。
 
 (中略)

 深刻な野宿者襲撃事件が起こると、しばしば「こどもを夜に出歩かせるな」「ホームレスはシェルターに入れろ」ということが言われる。しかし、若者と野宿者をそのように「隔離」しても、問題が本質的に解決することはない。主に十代の少年によって行われる野宿者襲撃は、いわば「若者と野宿者の最悪の出会い」だと言えるだろう。
 『ルポ 最底辺』146〜14pp、および149p)

「野宿者襲撃」論

「野宿者襲撃」論

 こちらは未読。

 
 また、野宿者の人びとに単にアパートや施設に入ってもらうだけではだめで、「関係的貧困」を避ける、つまり「釜ヶ崎やいくつかの公園のテント村でありえた相互扶助や生活の多様性・可能性を一般社会で実現していくという『関係的貧困』の解決が必要とされる」(236〜237pp)というのは鋭い指摘だし、とても重要な観点だと思います。


 それにしても、世界の経済大国(最近は怪しいが)たる日本において、「国境なき医師団」が診療所を開設するというのは、やはり異様だ。
 「国境なき医師団」のメンバーによれば

 大阪の野宿者のおかれている医療状況は海外の難民キャンプのかなり悪い状態に相当する。(117p)

 そうで、これもまた衝撃。第一世界の中に第三世界がちらばっている・・・。


新しい階級社会  新しい階級闘争    [格差]ですまされない現実

新しい階級社会 新しい階級闘争 [格差]ですまされない現実

 この本も力作。読む側も力をこめて読みました(←力んでどーする)。


 この本で個人的に印象深かった内容の一つは、現代日本社会は5つの階級に分かれつつあるという点。

 今やアメリカに次ぐ(何もそこまで対米追随しなくてもいいのに)貧困大国となった日本は、5%強の資本家階級、その下の20%弱の新中間階級(専門職、管理職など)、さらにその下が正規雇用の労働者階級(36.7%)、一番下がアンダークラス(22.1%)で、ちょっと外れた形で、旧中間層(自営業系)の16.3%という5階級が形成されつつあるというのが、橋本先生の分析(第4章)。

 そして、この階級所属は確実に固定化の道をたどっている(第5章)。


 私はこの分類でいくと「新中間階級」(特権階級に準ずる階級であり、「最悪」ではないにせよ「最大」の搾取者なんだそーな)に属すのですが、橋本氏いわく、この階級が立ち上がることで日本の未来は変わる、要は、階級社会化に歯止めをかけられるかどうかの鍵を握るのがこの階級ということで、「いま日本の新中間階級は、岐路に立っている。それはもちろん、日本社会全体にとっての岐路である。」(232p)という文章でこの本は終わっています。うーむ。

 新中間階級はリベラル傾向が強く、過半数が貧富解消政策に賛成し、政治的には労働者
階級寄りなので(これは納得)、アンダークラスが動くだけでなく、新中間階級が動くことで日本社会の方向は変わり得るわけですね。

 このことは肝に銘じて活動したいと思います。


 それにしても、個人的に心にぐさりと残った指摘は以下のくだりでした。

 現在の40歳代は、終身雇用と年功制の下で安定した就職した、最後の世代といっていいだろう。いまも40〜50歳代の人びとは正規労働者として、比較的安定した雇用と高い賃金を享受している。これらの人々に賃金を払い続けるために、企業はコスト削減を迫られ、その結果、大量の若者たちが非正規労働に追いやられている。(207p)

 若者の非正規雇用をしたり顔で心配している私が、若者を非正規雇用に追いやっているといえるのか!!がーーーん。

 

 私たちが持つべき正しい感情は、恥だ。今では私たち自身が、他の人の低賃金労働に「依存」していることを、恥じる心を持つべきなのだ。誰かが生活できないほどの低賃金で働いているとしたら、たとえば、あなたがもっと安くもっと便利に食べることができるためにその人が飢えているとしたら、その人はあなたのために大きな犠牲を払っていることになる。その能力と、健康と、人生の一部をあなたに捧げたことになる。
バーバラ・エーレンライク『ニッケル・アンド・ダイムド』(『新しい階級社会・・・』からの孫引き)

ニッケル・アンド・ダイムド -アメリカ下流社会の現実

ニッケル・アンド・ダイムド -アメリカ下流社会の現実

 
 ただ今、『プレカリアート』を読書中。

 

プレカリアート―デジタル日雇い世代の不安な生き方 (新書y)

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 おまけ:http://d.hatena.ne.jp/hinky/

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