イエローフェイス
昨日まで仕事の関係で東京に行っていました。
往復の新幹線の中で読んだのは『イエローフェイス』。
イエロー・フェイス―ハリウッド映画にみるアジア人の肖像 (朝日選書)
- 作者: 村上由見子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞
- 発売日: 1993/02
- メディア: 単行本
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ハリウッド映画の中でアジア人はどう描かれてきたか、その変遷(ある意味、全然変わらない)を丹念に辿った労作です。
1993年に出ているため、1992年段階で映画の分析が終わっているのが惜しい。2007年までの増補版を是非出して欲しい。
それにしても、打てば響くようにその時代、その時代のアメリカ社会が抱くアジアへの心理状態を見事に反映するハリウッド映画、恐るべし。
太平洋戦争中は、良き中国人と邪悪な日本人をせっせと描いてきたハリウッドが、戦後は一転して共産化した中国を邪悪な敵として描き、日米蜜月時代(?)の日本を良き存在として描く辺り、ウームとうなりましたね。
(ちなみに日本人の第一イメージは猿で、次は「害虫」だって。「名も無き害虫の大群」が日本人で、「駆除」すべき相手だったらしい。人と認識されてないんだ^^;。って笑い事じゃないよ。)
しかも「日本人」と「中国人」という名前が変わっただけで、描き方は同じ。要するに、主体はアメリカ人で日本人も中国人も単なる客体。自分の言語で話すことも許されない存在となっています。(これくらい日本人が英語を話せればって、違う!)
個人的には、この本の圧巻はベトナム戦争に関する映画について扱った部分でした。
アメリカ人にとって(もしくは西洋人にとって)、アジア人には顔がない。
アジア人とはいつも「ウヨウヨとアリのように蠢く『群れ(horde)』のイメージ」(229p)で描かれる存在である。Hordeというのは、普通人間には使わない単語らしいが、西洋にとってアジアのイメージとはまず「圧倒されるような人々の群れ」(229p)なのだ。
そして、常に群集であって、個人はいない。
1968年に北ヴェトナム政府に招かれてハノイ入りしたスーザン・ソンタグは、生まれて初めて訪れたアジアの地について次のような感想を述べている。
(中略)
「ヴェトナム人は“全体”(ホウル)としての人間であり、私たちのように“切り離された”(スプリット)人間ではないのだ」(『ハノイで考えたこと』)
そんなアジア人(ヴェトナム人)と戦争をしているアメリカは、ヴェトナム戦争を自分が理解できる文法に沿って「翻訳」することが出来ない。
映画『ディア・ハンター』では、それまでハリウッドが自信満々に示してきた従来の東洋認識のタガがはずれ、見事に解体してしまっている。
「アジアの言葉を話すアジア人」はあたかも初めて発見されたかのごとく、強烈なイメージでこの映画に登場する。そのコトバはアメリカ兵には何ひとつ理解できないのだ。機関銃のように発せられるコトバはすでに聴覚の拷問であり、奇声を発するヴェトナム人は「動物」にしか見えない。それこそはアメリカがどうしても「翻訳・解釈」のできなかった相手の姿であり、アメリカ人が体験したヴェトナム戦争の本質でもあった。(234〜235pp)
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長い間、ハリウッドがつまりアメリカの無意識が繰り返し語っていたのは、アジア人とは何か一つのもの(天皇とか共産主義とか)のもとに結集し「感情もなく平然と」戦う存在だということだった。(ちなみに、このイメージは80年代、エコノミック・アニマルと名を変えて「感情もなく平然と」アメリカ経済を侵略する日本人として再登場してくることになる。)
それは、アメリカ人にとって「恐怖」(ホラー=抽象的で理由の定めがたい、想像力にも関わる恐怖を意味する単語)である。
そして、そのホラーを描いたのがコッポラの『地獄の黙示録』。
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映画『プラトーン』においては、何か必死にわめくヴェトナム人の声はうっとうしい限りであり、アメリカ兵はそのうるさい雑音を「消す」ためだけにヴェトナム人を撃ち殺す。
敵であれ味方であれヴェトナム人は腹立たしくうっとうしい蟻の群れでしかなかった、というのはまさにアメリカ兵の戦場での実感だったのだろう。その意味でも、これはリアリティーに即した映画といえる。(249p)
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「東は東、西は西」と言いますが、あちらさんにとって、我々は理解不能の絶対的な「他者」ということでしょうか。
こちらにとっても、相手はなかなか理解困難な「他者」であることに違いはないわけで、この冷厳なる事実を見据えることから始めるしかないのかな。
こっちは西洋のことをなんとなく分かっているつもりの勘違いをしている部分が大きいだけに、余計難しいかも。
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明日から一週間、京都で研修会です。ネットなき環境です。
はるる